Chapter.1 「NEW GAME」
10月1日。中山競馬場。晴れ。気温26℃。
『さぁ!最終コーナーを回って先頭はケビンビューティとセブンスターが並んでいる!鞍上の守田が鞭をいれる!残り200メートルをきった!
外から赤の帽子ホープブランカがぐんぐん差を詰めてくる!しかし、これは届かないか!?
今ゴール!!勝ったのはわずかに内ケビンビューティ!守田センリ、本日2勝目!しかし、このレースは審議の青いランプが灯っています。お手持ちの勝ち馬投票券は払い戻しが確定するまで、お捨てにならないようご注意ください』
中山競馬第9レース(ダート1800メートル)を終えたところで、伊藤キヨスミはまだ馬券を買っていなかった。観戦スタンドの正面に設けられている芝生に寝転がっているだけ。レースを見ているのかもわからない。
「またハズしたよ。今日はダメだな。お前もこんなトコ寝転がってないでレース見ればいいのに」
一緒に来ていた永野が戻ってきて声をかけた。そこへキヨスミがつぶやく。
「・・・なあ」
「どうした?」
「『スーパーマリオブラザーズ』ってファミコンであっただろ?」
「ああ、そりゃ知ってるよ」
「あれのたしかステージ3-1あたりで無限に1UPできるウラ技があったの覚えてる?」
「あの階段でカメを何回も踏みつけるヤツだったっけ」
「オレが小さい頃、アレが全然出来なかったんだよ。最近やってないからわからないけど。今だったら出来るかな?」
「そりゃあ今ならコツさえつかめばできるんじゃねえの。“キンタマリオ”とかやって爆笑するガキじゃあるまいし」
「そういやそんなのあったな。爆笑してたよ」
「あの頃は、作ったヤツも予期してなかったウラ技がたくさんあったから面白かったよな。最近のは作ったほうも狙い過ぎてて、発見した感動が薄れる気がする」
「そうか?それはそれで嬉しいもんだけどな」
「おい、そんなことより馬券はどうするんだよ?次のレース買うのか?」
「ううん・・・。いいや、そんなに金も持ってきてないし」
「おい!いくら今日がGⅠ開催日だからってメインレースしか買わない気か?」
「まぁ今日は良いレースが見れりゃそれでいいしな。それに、オレたちゃ高校生だよ。ホントは馬券買うのなんて違法なんだよ」
「何度もココに足運んどいて、それなりに儲けてるお前が言うな!」
「そりゃそうだな」
「オレ、次のレースのパドック見に行ってくるな。どうせまだここで寝そべってるんだろ」
「ああ、行ってらっしゃ~い」
そう言って永野を見送ると、また芝生の世界へと身を埋めた。何を考えることもなく。
『第9レースの配当金をお伝えします。馬連 1-9 1220円。馬単 1-9 2510円 3連複 1-3-9 3010円 3連単 1-9-3 9490円。単勝・複勝・枠連・ワイドの結果は以上のようになっています』
キヨスミは先ほどのレースの結果を聞き流しながら、おとといの出来事を思い出してしまった。
・・・告られた。
同じクラスだったが、特別親しくしていたわけでもない女に突然である。思わぬ不意打ちだった。
なぜオレに?
正直、今は恋愛なんてどうでもよかった。もちろん男子の平均、いや、それ以上の下心と好奇心は持ち合わせている。だけど、それ以外の普段の生活でベタベタできるほど自分はウェットじゃない。どちらかと言えばうっとうしいと思うだけである。
返事は保留している。無理に今結論を出さないでもいいだろう。
それっきりおとといの出来事を考えるのはやめた。次のレースも馬券を買う気が起きない。キヨスミは目的も無いのに携帯電話を開いてしまった。悪い癖である。仕方ないので、よく見る掲示板のページを見てみた。くだらない雑談ばかり交わっているところだ。
【in 中山】RPGでもやらないか?【Race Course】 |
「???」
なんだろう?このスレッドは?別に競馬の話題に特化した板でも無いのに、場所はココが指定されている。それに「RPG(ロール・プレイング・ゲーム)」とはどういうことだろうか?
【in 中山】RPGでもやらないか?【Race Course】 |
まぁ大抵こういうのはネタで、本当に接触してくることはないだろう。ちょっと釣られてみるか。スレッドを立てた本人も、まさか本当に書き込んだヤツがここにいるとは思うまい。それに、この「RPG(ロール・プレイング・ゲーム)」という単語には、この殺伐とした世の中で、言葉には言い表せない「ときめき」みたいなものを感じた。そう考えるのは自分だけだろうか?
13 :名無しさん@インスパイヤ:10/01(日) 14:37:01 |
第10レース(芝2200メートル)が終わったとき、永野がまた落胆した顔で帰ってきた。
「おい!またハズしたよ!やっぱりベテランの守田はスゴいな。今日だけで3勝目だよ。人気が無い馬でも強引に追ってくるから恐い。こりゃメインのスプリンターズステークスも軸にしたほうが良さそうだな」
「・・・なあ」
「なんだよ?またどうでもいいような話か?」
「・・・昨日、女に・・・告られた」
「!?」
永野は少し黙って
「結構な話じゃねえかよ。どおりで今日は大人しいなと思ったら、そんなことばっかり考えてたな」
「そうかもしれない」
「応えてやりゃいいんじゃねえの?お前にとっちゃ2度とやって来ないチャンスかもしれないぞ」
「あぁ?処女食い三昧のお前ほど単純じゃないんだよ!そういうお前みたいな男がいるから、♂と♀で5分5分の社会のバランスが崩れるんだろが!おう?今までどんだけ他の男の分け前を奪ってきたんだ?ええ?」
「なんだよ。いつものテンション戻ってきたんじゃないか。そろそろレースがよく見れるところ移動にしないと後悔すんぞ。さっさと立てよ」
「ったく、そんなヤツがなんで休日にこんなところにゴロついてんだか・・・」
2人はレースのよく見える馬場の目の前へ移動していった。
時計は第11レース「スプリンターズステークス」(GⅠ・芝1200メートル)の発走まで1分前をきっている。周囲は人混みに埋め尽くされ、もう身動きできない状態だ。
「お前、今まで馬券買ってこなかったけど、結局このレース買ったみたいだな」
「ああ、好きな地方馬が出てたからな。勝算が無い分、単勝からごっそり儲けられるかもしれないしな」
「なんだ。結局いつもどおり穴馬狙いか。お前らしいな」
「もう何とでも言ってくれ」
巨大なモニタービジョンには、台に乗ってせり上がるスターターが映し出された。瞬間、競馬場からどっと歓声が上がる。スターターが赤旗を一振り。お馴染みにファンファーレが響き始め、観衆は丸めた新聞や手を叩いて一定のリズムを刻む。このわずかな時間だけ数万の観衆は一つになる。ファンファーレが最後の音を長く響かせた瞬間、一つだったリズムは崩れ、拍手と歓声に変わる。
『さぁ!秋のGⅠ戦線第1弾!電撃6ハロンを制するスピードスターはどの馬か!?スプリンターズステークスの発走です!!』
各馬1頭ずつ狭いゲートの中へと押し込まれていく。
「いよいよだな」
つぶやいたキヨスミは、ある違和感に気づいた。肩にさげていたはずのバッグが無い。自由に歩き回れないくらいの人混みになった時点では、確かに感触があったはずである。
「ヤバイ!バッグが無くなってる!」
「おい!マジかよ!?」
皆スタート地点一方向に視線を向けている中、キヨスミは慌てて周りを見渡してみる。すると、人混みをかき分けながら、一人、皆の視線とは逆方向に移動している人影を見つけた。手で人を払い除けるかのように奥へと進んでいる。
『ゲートが開きます』
「アイツだ!!くそー、追うぞ!!アレには財布とかこのレースの馬券とか入ってるんだよ!!」
26 :ただのしかばね ◆QqQwpHtnxE:10/01(日) 15:41:29 |
『スタートしました!!各馬きれいな出だしです』
