天使のナイフ です。
著者の薬丸岳 氏は存じませんでしたが、パラパラめくって飛び込んできた文体が非常に丁寧で、読みやすいなぁ~と思ったのが第一印象でした。
しかしながら、そのテーマは、少年犯罪。
被害者と法律との間に大きな壁があると認識されている問題の、筆頭ともいえるこの重いテーマに、真っ向から取り組んだ意欲策です。
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桧山貴志の妻祥子が、自宅マンションで首から血を流して死んでいた。
警察では殺人事件と断定して捜査を開始、その一週間後、犯人が捕まった。
安堵と憎悪に充ちた桧山はしかし、担当の三枝刑事の続けた言葉に絶句する。
「逮捕はされません」
犯人は、いずれも13歳。中学一年の三人の男子生徒たちだった。14歳以下の少年は、刑法四十一条の適用により罪に問われることがないというのである。
それからしばらくの後、少年の処分が決定したことをマスコミから告げられた桧山は、司法は被害者家族には一切目を向けないことを嘆く。
その気持ちを聞かれた桧山は、マスコミの前で、
「自分の手で犯人を殺してやりたい」
と話し、被害者側でありながら、世間から非難される身となってしまった。
それから四年後、妻の死が今だわだかまっていた桧山の許に、三枝刑事が現れ、犯人の少年の一人が、桧山の勤め先付近で殺された事を告げた。
アリバイがない桧山は、先の発言もあって、一転、疑惑の人となってしまった。
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物語冒頭の事件を表面的に見ると、光市の母子殺害事件を思わせますが、読み勧めるうちに、それらを取り巻く状況や、犯行に及んだ経緯などは全く別物です。
光市の真の経緯は明かされていませんので知りえませんが、明らかに違うということだけはわかります。
その理由は大きなネタバレになるので書けません。
しかし、遠まわしに言うなら、オススメ文としては適切ではありませんが、出来過ぎなのです。
関係者がひとところに集まりすぎている、そんな印象がありました。
現実世界では、そこまで関係する人が集まることはまずありえないと思います。
だからと言って、それが小説としての評価を下げるかといえば、そうではありません。
考えられて、練りに練られた構成であり、人物だって生きて描かれています。
そういった意味では、完成度は非常に高いと思います。
むしろ、これはフィクションである。現実ではないよ、というのを暗に訴えかけている、そんな気さえするのです。
そう、だからこそ、現実に起こった光市の母子殺害事件が、現実のものとして浮き出てくるのかも知れません。
あの事件を風化させてはならない。
そう思う、作者の気持ちが、どことなく伝わってくる気がしました。
ちょっとだけ、晩酌の酔いがまわってきた所為もあるのでしょうか、ちょっと熱くなりすぎたかもしれません。
でも、非常に興味深く、作りこまれた作品であることは間違いないでしょう。
今日はここまで。
天使のナイフ (講談社文庫) [文庫]
薬丸 岳(著)