外山は由紀との初めてのデートで[僕の行きつけの店に行こう]と由紀を誘った
 
由紀は[僕の行きつけの店]という言葉に有頂天になった
自分が外山に認められた気がしたからだ
 
2人は歩きだした
 
しかし歩いても歩いてもなかなか店に着かない
ハイヒールの足が痛くなってが
初めてのデートでもあり由紀は我慢した
 
外山の[行きつけの店]に着くまで1時間は歩いたと思う
ようやく着いた店は、ジャズの生演奏を聞きながら食事が出来るジャズクラブだった
 
 
 
 
そこまで話して[どう思う?]と由紀が聞いてきた
[何でタクシーを使わないの]
麻美は素直に不思議だった
 
由紀も麻美も出かける時は、常に7㎝くらいのヒールを履いている
デートで1時間も歩くことなど想定していないからだ
 
[その時は私も解らなかったんだけど、何回かデートをするうちに気づいたわ]
 
[なあに?]
 
[外山はドケチなのよ]
 
麻美は驚いた
それまで由紀から外山のノロケ話しか聞いたことが無かったからだ
由紀は両親の関係で海外で産まれ二十歳まで海外にいたという
そのせいか日本語が少しおかしいところがあったが、麻美は最初由紀がどこかの地方出身なのだと思いこんでいた
 
両親の離婚で由紀は母親と母親の実家のある日本に戻ってきたのだという
父親のもとには兄がいるのだと聞いた
母親が亡くなり、今は母親が建てた大きな家に1人で暮らしている
 
数年前まで働いていたが、そこを辞めてからは何もしていないのだと言う
外車を乗り回し、身につける物は上から下まで一流ブランドの由紀
 
どうやって生計を立てているのか麻美には不思議だった
 
1度由紀と飲んで、べろべろに酔ってそのまま由紀の家に泊まったことがある
 
目が覚めて驚いた
天蓋つきのWベッドで麻美は由紀と寝ていたのだった
 
マリーアントワネットかっ!
 
ボケた頭で思わず心の中でつっこみを入れた
天蓋つきのベッドで寝ている人など芸能人のお宅拝見くらいでしか見たことが無い
しかもベッドの横には全面鏡張りの大きなクローゼットが2間分くらいあった
 
3階建ての家には階毎にトイレがあったが由紀の部屋にもトイレが作られてあり、それも驚きだった
 
一般庶民の麻美には驚くことばかりだったが、敢えて口には出さなかった
 
由紀の結婚相手はそれなりの収入が無いと難しいのではないかと漠然と思った
 
 
その日、麻美と由紀は由紀の行きつけのフレンチの店に行った
夜は高級フレンチの店だが、ランチは3千5百円からと手頃な価格で店は賑わっていた 
 
 
由紀が外山と付き合い出したばかりの頃、由紀はデートの度に麻美に電話やメールで報告をしてきた
 
報告というよりも、のろけ話を麻美に聞いてほしくて仕方がないのだった
 
[由紀は広子と似ている]と麻美はイライラして思った
 
広子も同じく、自分の心の中にためておくということがない
麻美には由紀と外山の関係など興味がないし、他人のラブラブな話など聞きたくもない
 
女学生でもあるまいし、いい加減にしろ!と麻美は心の中で叫んでいた
 
由紀は毎回[報告]の最後に
[どう思う?]と聞いてくる
殆どの話がつまらないのろけ話なのに聞いてくる
 
麻美は閉口した
幼稚園の先生じゃないんだ!
 
由紀の電話は日毎に多くなり、麻美が仕事から帰ってくる時間帯を見計らっては毎日のようにかかってくるようになった
 
麻美は嫌気がさした
 
[ごめんね今友達が来てるから]
 
適当な理由をつけて由紀の電話を毎回断るようにした
 
由紀もさすがに麻美の態度で何かを察したらしく、暫く音沙汰が無くなった
 
暫く…とはいっても1ヶ月くらいだったと思うが、ある日の休日
由紀から[お昼一緒に食べない?]と誘いの電話がきた
 
またか…と麻美は思ったが
その頃には麻美の気持ちも収まっていたので出かけることにした
 
由紀はオフホワイトのナントカという外車で麻美を迎えにきた
車に興味の無い麻美は、何回聞いても車の名前が覚えられない
 
外車というのは、道路側から乗らなくてはいけない
 
由紀の車に乗る度に麻美は間違えて運転席側のドアを開けてしまい、毎回由紀に笑われるのだった