多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

動物病院 EL FARO 院長が日々の診療の中で考えたことや思いついたことを書いています。

内容は、動物や獣医療に関することや、それ以外のことも、色々です。

これまでの「診療日記」からブログにしました。
ブログタイトルは以前は「血液型性格判断はニセ科学です」というタイトルでしたが変更しました。「院長日記」とか「よしなしごと」とか幾つか考えましたがあまり面白くないので、ひとまず上の表題にしました。

何故「川の畔(ほとり)」ではなくて「川の麓(ふもと)」か?というのは、まぁわかるヒトにだけ解って頂ければイイと思います。決して”うっかり間違えた”訳ではないのです(^_^;)

今回の症例は二十歳の猫さんです。

元保護猫さんで、原因は不明ですがお尻の左背側(尻尾の付け根〜肛門付近まで)に大きな皮膚欠損が生じており、当院来院時は前の病院で処置されたハイドロコロイド材で覆われていました。

ドレッシングを除去したところ、ツルッとした慢性不良肉芽で覆われた全層欠損がみとめられ、創縁はポケット状の隙間が出来て皮膚が浮いた状態でした。

本来ならば、猫の慢性創傷は全身麻酔下で剥離&切除して創縁も新鮮創にして縫い合わせる”手術”による閉鎖が必要になります。しかしこの猫さんは二十歳という高齢、しかも血液検査で腎機能の低下がみとめられ、全身麻酔のリスクは高いと思われたため他の方法を考えました。

 

幸い、性格がフレンドリーでとても大人しかったことと、大腿部側の皮膚に余裕があり引っ張ると傷を塞ぐことができたため、軽く鎮静をかけて局所麻酔にて(傷を新鮮創にせずそのまま)ブランケットステッチにて創を閉鎖し、同時にフィーディングチューブをドレーン代わりに設置しました。チューブにはサイドホールを幾つか開け、5mLシリンジに繋いで陰圧をかけ、持続陰圧ドレーンとしました。

慢性創傷は「不良肉芽」とも呼ばれ、そのまま縫い合わせても通常はくっ付かずに開いてしまいます。しかし内部に陰圧をかけることで”なるべく開かない”ようにすることが出来るのではないか?と淡い期待を抱いて今回のような処置を試みました。

 

1週間ほどで、ドレーンに滲出液がほぼ吸引されなくなったのでドレーンチューブを除去しました。数日経過すると、縫合部の真ん中あたりがちょっと開いてきました。

「やはりダメか…」と思ったのですが、意外にもこの創傷の周囲はポケット状になっておらず、離開部位は限定的でした。なんとかこの「不良肉芽」を活性化させて治癒に向かわせる方法はないか?と考え、今度はテルダーミス®︎という人工真皮を創面に縫い付けてみました。

実はこれも、本来の使用方法ではないため、数日すると生着せずに脱落してしまいました。しかし、これが何かの刺激になったのか、この後から創面が徐々に縮小し始めました。

こういう場合は、「湿潤」に拘ると不良肉芽が増殖しすぎて却って創面積が拡大したりすることが多いため、ドレッシング材などで被覆せずに乾燥&ワセリン塗布のみで管理します。

日に日に創面が縮小してきます。

完全に塞がりました。

本来なら「手術が必要」と思われた高齢猫さんの慢性創傷でしたが、局所麻酔による仮縫合と陰圧ドレーン管理で治癒させることができました。部位が「お尻」という、比較的皮膚の余裕がある部位だったことも幸いしたと思われます。

当院初診から治癒まで約1ヶ月間、入院での管理でしたが、とても人懐こい”おばあちゃん”猫さんで、私を含めてスタッフ全員メロメロにしていました照れ

 

12歳のトイプーさんです。

 

4ヶ月ほど前に掛かり付けの動物病院で歯石除去のために全身麻酔をかけたそうです。

これが原因かどうかは不明ですが、その後から右の体幹部の皮膚が赤く変色し水脹れが出来て皮膚が剥がれてしまったとのこと・・・しばらくは掛かり付けの病院で治療しましたがなかなか良くならず、二次診療施設の皮膚科を受診して治療を受けていたとのことです。

 

 

しかしそれでも全然改善しないので、ネットで当院を見つけて来院されました。

 

来院した際の状態は、メピレックス・ボーダーという貼り付け式のフォームタイプのドレッシングで覆われており、週に3回ほど皮膚科に通院して交換していた、とのことでした。

 

 

当院では、ドレッシング材をズイコウパッド®︎)という吸水性に優れたドレッシング材に変更し、ご家庭で毎日交換していただくように指示しました。

 

 

そして1週間後、明らかに傷が小さくなりました。

 

 

たった1週間で、今まで4ヶ月も全く改善が無かった創傷が見違えるほど改善したのには私自身もちょっと驚きましたが、何よりご家族が非常に喜ばれました。

その後は上皮化によって順調に創面積の縮小が見られ、途中ちょっと上皮化のスピードが落ちましたが、約3ヶ月後には完全に上皮化して治癒しました。

 

 

受傷後時間が経過していない新鮮創と違って、時間が経過した慢性創はなかなか治りにくいことが多いです。特に猫では治りにくく、外科的な方法で手術により閉鎖しないと治らないケースが多いのですが、犬の場合は猫と比べるとドレッシング管理による保存的な方法でも治るケースがあります。

但し、適切なドレッシング管理をしないと治癒には向かいません。今回のケースでは明らかにドレッシング材の選択と交換頻度が不適切と思われました。

これは「湿潤療法」という名称の誤解・理解不足による典型的な症例です。

 

以前、病院サイトの方のコラムにも<モイスト・ウンド・ヒーリングと「湿潤療法」について>という文章を書きましたが、昨今は特にこの「湿潤」というワードに引っ張られて創傷を過剰に湿潤にして「湿潤療法やってるけど治らない」というケースが非常に多いと感じています。「適切な湿潤環境過剰な湿潤状態」ということをきちんと理解して欲しい、と感じた症例でした。

他院からの紹介例です。

 

柴犬ちゃんの左手根部に腫瘍が出来てしまいました。

 

 

この部位に悪性腫瘍が出来てしまった場合の治療選択肢としては、切除&放射線照射、断脚などの方法が考えられます。当然ながら腫瘍の種類によってその方法は様々ですが、今回の趣旨では無いので詳細は割愛します。

 

今回のケースでは、ご家族は断脚を望まれず、腫瘍のみの切除を希望されました。

ただ、この部位に生じた腫瘍を切除すると皮膚が足りなくなるため、皮膚欠損が生じてしまいます。無理に皮膚を引っ張って縫い合わせても離開してしまうか、血行障害が生じて脚の先端部分がうっ血、最悪の場合は壊死してしまう危険性があります。

 

そこで、胸背皮弁という方法で欠損部分を覆うことにしました。

この皮弁は今までも何例も実施したことがあり、かなり遠い皮膚欠損でも広めの皮弁を採ることが出来る便利なフラップです。しかし通常は肘付近までが限界であり、手首にまで延長させた経験はありませんでした。

 

しかし教科書的には、フラップ先端をL字に形成することでより長いフラップを作り出せる、と書かれています。

今回、この方法を採用してL字型の胸背皮弁で手首に生じた腫瘍切除後の皮膚欠損を覆うことにしました。

 

 

事前に超音波(エコー)で胸背動脈の走行を確認し、この血管を軸としたL字型のフラップを背中に向かって採皮し、反転させてフラップ先端部が余裕を持って手首にまで届くようにしました。

 

 

術後の経過は良好、皮弁先端部分は血行が悪くなりがちなのですが、皮弁壊死も起きませんでした。

約2週間で抜糸となりました。

 

 

胸背皮弁のような、体幹部の血管を利用した比較的長大なアキシャルパターン・フラップは四肢などの欠損部を覆うのに利用されます。しかしあまり長くするとフラップ先端部の血行が悪くなって皮弁壊死を起こすリスクが高くなるため、通常はあまり長いフラップは作らないようにしているのですが、今回はかなり長いフラップを採る必要がありました。

 

フラップがどこまで届くか、というのは動物の体型によってかなり違いがあります。ダックスフントなど脚の短い犬種ならば普通の長さのフラップでも十分に遠位まで届かせることが出来ますが、グレイハウンドのような脚の長い犬種ではそうはいきません。

 

今回は非常にうまくいきました。