今回の症例は二十歳の猫さんです。
元保護猫さんで、原因は不明ですがお尻の左背側(尻尾の付け根〜肛門付近まで)に大きな皮膚欠損が生じており、当院来院時は前の病院で処置されたハイドロコロイド材で覆われていました。
ドレッシングを除去したところ、ツルッとした慢性不良肉芽で覆われた全層欠損がみとめられ、創縁はポケット状の隙間が出来て皮膚が浮いた状態でした。
本来ならば、猫の慢性創傷は全身麻酔下で剥離&切除して創縁も新鮮創にして縫い合わせる”手術”による閉鎖が必要になります。しかしこの猫さんは二十歳という高齢、しかも血液検査で腎機能の低下がみとめられ、全身麻酔のリスクは高いと思われたため他の方法を考えました。
幸い、性格がフレンドリーでとても大人しかったことと、大腿部側の皮膚に余裕があり引っ張ると傷を塞ぐことができたため、軽く鎮静をかけて局所麻酔にて(傷を新鮮創にせずそのまま)ブランケットステッチにて創を閉鎖し、同時にフィーディングチューブをドレーン代わりに設置しました。チューブにはサイドホールを幾つか開け、5mLシリンジに繋いで陰圧をかけ、持続陰圧ドレーンとしました。
慢性創傷は「不良肉芽」とも呼ばれ、そのまま縫い合わせても通常はくっ付かずに開いてしまいます。しかし内部に陰圧をかけることで”なるべく開かない”ようにすることが出来るのではないか?と淡い期待を抱いて今回のような処置を試みました。
1週間ほどで、ドレーンに滲出液がほぼ吸引されなくなったのでドレーンチューブを除去しました。数日経過すると、縫合部の真ん中あたりがちょっと開いてきました。
「やはりダメか…」と思ったのですが、意外にもこの創傷の周囲はポケット状になっておらず、離開部位は限定的でした。なんとかこの「不良肉芽」を活性化させて治癒に向かわせる方法はないか?と考え、今度はテルダーミス®︎という人工真皮を創面に縫い付けてみました。
実はこれも、本来の使用方法ではないため、数日すると生着せずに脱落してしまいました。しかし、これが何かの刺激になったのか、この後から創面が徐々に縮小し始めました。
こういう場合は、「湿潤」に拘ると不良肉芽が増殖しすぎて却って創面積が拡大したりすることが多いため、ドレッシング材などで被覆せずに乾燥&ワセリン塗布のみで管理します。
日に日に創面が縮小してきます。
完全に塞がりました。
本来なら「手術が必要」と思われた高齢猫さんの慢性創傷でしたが、局所麻酔による仮縫合と陰圧ドレーン管理で治癒させることができました。部位が「お尻」という、比較的皮膚の余裕がある部位だったことも幸いしたと思われます。
当院初診から治癒まで約1ヶ月間、入院での管理でしたが、とても人懐こい”おばあちゃん”猫さんで、私を含めてスタッフ全員メロメロにしていました![]()
















