多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

動物病院 EL FARO 院長が日々の診療の中で考えたことや思いついたことを書いています。

内容は、動物や獣医療に関することや、それ以外のことも、色々です。

これまでの「診療日記」からブログにしました。
ブログタイトルは以前は「血液型性格判断はニセ科学です」というタイトルでしたが変更しました。「院長日記」とか「よしなしごと」とか幾つか考えましたがあまり面白くないので、ひとまず上の表題にしました。

何故「川の畔(ほとり)」ではなくて「川の麓(ふもと)」か?というのは、まぁわかるヒトにだけ解って頂ければイイと思います。決して”うっかり間違えた”訳ではないのです(^_^;)

12歳のトイプーさんです。

 

4ヶ月ほど前に掛かり付けの動物病院で歯石除去のために全身麻酔をかけたそうです。

これが原因かどうかは不明ですが、その後から右の体幹部の皮膚が赤く変色し水脹れが出来て皮膚が剥がれてしまったとのこと・・・しばらくは掛かり付けの病院で治療しましたがなかなか良くならず、二次診療施設の皮膚科を受診して治療を受けていたとのことです。

 

 

しかしそれでも全然改善しないので、ネットで当院を見つけて来院されました。

 

来院した際の状態は、メピレックス・ボーダーという貼り付け式のフォームタイプのドレッシングで覆われており、週に3回ほど皮膚科に通院して交換していた、とのことでした。

 

 

当院では、ドレッシング材をズイコウパッド®︎)という吸水性に優れたドレッシング材に変更し、ご家庭で毎日交換していただくように指示しました。

 

 

そして1週間後、明らかに傷が小さくなりました。

 

 

たった1週間で、今まで4ヶ月も全く改善が無かった創傷が見違えるほど改善したのには私自身もちょっと驚きましたが、何よりご家族が非常に喜ばれました。

その後は上皮化によって順調に創面積の縮小が見られ、途中ちょっと上皮化のスピードが落ちましたが、約3ヶ月後には完全に上皮化して治癒しました。

 

 

受傷後時間が経過していない新鮮創と違って、時間が経過した慢性創はなかなか治りにくいことが多いです。特に猫では治りにくく、外科的な方法で手術により閉鎖しないと治らないケースが多いのですが、犬の場合は猫と比べるとドレッシング管理による保存的な方法でも治るケースがあります。

但し、適切なドレッシング管理をしないと治癒には向かいません。今回のケースでは明らかにドレッシング材の選択と交換頻度が不適切と思われました。

これは「湿潤療法」という名称の誤解・理解不足による典型的な症例です。

 

以前、病院サイトの方のコラムにも<モイスト・ウンド・ヒーリングと「湿潤療法」について>という文章を書きましたが、昨今は特にこの「湿潤」というワードに引っ張られて創傷を過剰に湿潤にして「湿潤療法やってるけど治らない」というケースが非常に多いと感じています。「適切な湿潤環境過剰な湿潤状態」ということをきちんと理解して欲しい、と感じた症例でした。

他院からの紹介例です。

 

柴犬ちゃんの左手根部に腫瘍が出来てしまいました。

 

 

この部位に悪性腫瘍が出来てしまった場合の治療選択肢としては、切除&放射線照射、断脚などの方法が考えられます。当然ながら腫瘍の種類によってその方法は様々ですが、今回の趣旨では無いので詳細は割愛します。

 

今回のケースでは、ご家族は断脚を望まれず、腫瘍のみの切除を希望されました。

ただ、この部位に生じた腫瘍を切除すると皮膚が足りなくなるため、皮膚欠損が生じてしまいます。無理に皮膚を引っ張って縫い合わせても離開してしまうか、血行障害が生じて脚の先端部分がうっ血、最悪の場合は壊死してしまう危険性があります。

 

そこで、胸背皮弁という方法で欠損部分を覆うことにしました。

この皮弁は今までも何例も実施したことがあり、かなり遠い皮膚欠損でも広めの皮弁を採ることが出来る便利なフラップです。しかし通常は肘付近までが限界であり、手首にまで延長させた経験はありませんでした。

 

しかし教科書的には、フラップ先端をL字に形成することでより長いフラップを作り出せる、と書かれています。

今回、この方法を採用してL字型の胸背皮弁で手首に生じた腫瘍切除後の皮膚欠損を覆うことにしました。

 

 

事前に超音波(エコー)で胸背動脈の走行を確認し、この血管を軸としたL字型のフラップを背中に向かって採皮し、反転させてフラップ先端部が余裕を持って手首にまで届くようにしました。

 

 

術後の経過は良好、皮弁先端部分は血行が悪くなりがちなのですが、皮弁壊死も起きませんでした。

約2週間で抜糸となりました。

 

 

胸背皮弁のような、体幹部の血管を利用した比較的長大なアキシャルパターン・フラップは四肢などの欠損部を覆うのに利用されます。しかしあまり長くするとフラップ先端部の血行が悪くなって皮弁壊死を起こすリスクが高くなるため、通常はあまり長いフラップは作らないようにしているのですが、今回はかなり長いフラップを採る必要がありました。

 

フラップがどこまで届くか、というのは動物の体型によってかなり違いがあります。ダックスフントなど脚の短い犬種ならば普通の長さのフラップでも十分に遠位まで届かせることが出来ますが、グレイハウンドのような脚の長い犬種ではそうはいきません。

 

今回は非常にうまくいきました。

 

 

  猫の中足部の皮膚欠損ーその1

「中足部」とは足先と踵の間、ヒトの足で説明すると足の甲(および足裏)の部分のことを指します。

犬や猫など多くの動物は踵を着かずに爪先で立っていますので、中足部は接地している足先より数cm上の部分ということになります。

この部分に皮膚欠損が生じてしまうと、皮膚を引っ張って寄せるだけの余裕が無いため普通に縫合・閉鎖することができません。一般的にはAxial pattern flapという皮弁手術によって欠損部分を閉鎖することになります。

 

この猫さんは、中足部に腫瘍が出来たため近くの動物病院で切除しましたが、「皮膚が足りないので縫合できない」という理由で開放創(傷を縫わずに開いた状態)のまま退院してきたそうです。

その後、数ヶ月の間に複数の動物病院に通いましたが改善する様子が無い、ということで(かなり遠方の方なのですが)当院へ来院されました。

Reverse saphenous conduit flap(逆行性伏在導管フラップ)という皮弁を使用して手術による閉鎖を試みます。

この方法は、内くるぶしから情報に向かって伸びる内伏在静脈とその周辺の皮膚をフラップ状に切り出し、反転させて欠損部分に被せて縫合・閉鎖するという方法です。

こちらが完成形。皮弁の根本が捩れてシワになっていますが、これは皮弁基部を約180°反転させているので仕方がありません。

この皮弁は静脈皮弁のためか、術後にうっ血が生じて浮腫みが出るのが特徴です。しかし数日すると浮腫は改善します。

 

このケースでは、術後に皮弁の先端部分(血行が悪くなりやすい)や関節屈曲部の縫合部に小さな離開が生じたため何度が縫い直しが必要となりましたが、約1ヶ月ほどで完治となりました(E.カラー生活はもう少し続きましたが)。

 

 

  猫の中足部の皮膚欠損ーその2

この猫さんは元々保護猫ちゃんで、保護された時から中足部に傷があったそうです。

掛かりつけの病院で治療していましたがなかなか改善しないため、当院を受診されました。

やはり猫の慢性創傷(受傷から時間の経過した傷)は治りにくいため、手術での対応となりました。

術式は上記の症例と同様、Reverse saphenous conduit flapによる閉鎖を試みました。

術後の様子。問題がなければ約2週間で抜糸予定となります。

抜糸直後の様子です。時間が経って毛が生えてくればもっと目立たなくなると思われます(但し毛の生える向きは逆になります:逆さまに反転させているため)。

動物、特に猫さんは少しでも気になる部分があると熱心に舐めたがるので、しばらくはエリザベス・カラーによる管理が必須となります。