世の中にはいろんな特技の持ち主がいるものである。

 どんなに固く結んだひもでもあっという間にほどいてしまうQさん。車庫入れの名人Lさん。トイレの場所を見つける名人Jさん。いずれも名もない市民である。

 さらに感心したのは、Bさんという52歳の男性。

 先日、この人と面談をしていたときのことだ。

 Bさんの目の前、テーブルの上のお皿に1匹のハエが止まった。

 すると、Bさんは、「見ててください。」と言って、フッと、そのハエに息を吐きかけたのである。

 そしたら、なんと、そのハエは動かなくなった。もしかしたら死んだのかもしれない。

 いずれにせよ、Bさんは、そのハエを紙ナプキンでつまむと、ナプキンごとくちゃくちゃに丸めて処分したのであった。

 僕はこのBさんを「毒ガス男」と呼びたい。

 恐るべき特技の持ち主と思う。

 あっけにとられて、「すごいですね。こんなのは初めて見ましたよ。」と僕が言ったら、彼は「でも、こんなことできたって金にもなんにもなりませんよ。」と笑っていた。

 それはそうかも。ただ、それにしてもすごい。

 しかし、その後、Bさんに近づくのがかなりこわくなったのも事実であった。