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くればのブログ

上越市を中心に活動する SingerSongWriter 中村賢一

どうやら道に迷ってしまったようだ。
新潟県と長野県の県境
8月に入ったばかりだ
時間は午前1時を過ぎている。
 
車のライトで照らされる対象に
反射するものは何もないから
数メートル先の木々が
ぼんやりと光を受けているだけである。
まいったな
近道を通ったつもりだったが
来たことも無いとこに迷い込んでしまった。
カーナビも無い時代である。
 
日産ホーミーに一人乗り込み
仕事を終えての帰り道である。
仕事が長引いてしまった。
泊まって明日帰路についても良かったのだが
子供たちとした約束が明日あるから
どうしても今日中に帰りたかった。
昨日までの台風で
左右から倒れた木々をよけながら
もう1時間近く走っている。
 
途中、大きく左に曲がる上り坂を
越えてすぐのところで
左右からの倒木により
通れなくなっているところがあり
急ブレーキをかけた。
障害物が闇に溶け込んでいるため
危うくぶつかってしまうところだった。
 
道幅も狭く引き返すこともできないし
携帯電話も圏外で助けもよべない。
仕方なく軍手を装着しながら
車から降りて外に出た。
小刻みなディーゼル音に混ざりながら
複数の聞いた事の無い生き物の声が
不規則なリズムで聴こえていた。
夏だというのにひんやりとした空気の中、
なんだか急に不安が襲った。
ぬかるんだ地面を踏みこみながら
左側から倒れている木を肩に力を入れて動かし、
何とか通れる隙間をつくった。
怖くなって一目散に車に乗り、
暗闇の中をまたひたすら走り続けた。
 
分岐も無い
道なりに走るしかなかった。
しばらくすると
何と見たことのある風景が目の前に現れた。
 
あれ?
フロントガラスの向こうに見えているものは、
さっき退かした倒木の場所だ。
暗闇だから同じように見えるのかな?
そう思って
さっきと同じように
隙間を通り抜け、更にまた走り続けた。
ひたすら同じような悪路を走り続けると
何と
また見たことのある風景が目の前に現れた。
またしても1時間ほど前に退かした倒木の場所である。
 
さすがに怖さで震えてきた。
怖くてアクセルを踏みながら
倒木の隙間を通るのだが、
何かに引っ張られている感覚があり
クルマが上っていかない。
ディーゼル音が大きく響き渡るだけで
クルマが動かない。
全身発汗状態で、もうパニックである。
 
その時だ、
『そっちは竜神様の方だよ』
『違うよ、こっちが竜神様だよ』
と、子供のような声が聞こえてきた。
思わず座席から飛び上がってしまった。
『パーーン』
とっさにクラクションを鳴らしている
自分がいた。
もう頭の中は真っ白である。
クラクションを鳴らしたと同時に
クルマは勢いよく前進した。
もう、何が何だか分からなくなっている。
 
何があったのか?バックミラーを見ると
なにやら青白く光るものが2つ見えた。
昔から霊感は強い方だが、
こんな体験は初めてである。
急に走り出した衝撃で
ダッシュボードの上に置いてあった
クマのぬいぐるみが
ひざの上に落ちてきた。
先日、家族に見守られながら息をひきとった
愛犬が大好きだったおもちゃで、
たくさんの噛み痕があるぬいぐるみである。
いつもクルマに乗ると
ひざの上に乗っかってきた彼は、
運転席側の窓から顔を出しては
舌を出しながら嬉しそうにしていた。
柴犬の雑種(柴ミックス)である。
名前は妹が『ポチ』と
ありきたりな名前を付けた。
気は強かったけど甘えん坊な犬だった。
何だか、
ひざの上に愛犬が乗り上げてきたような
懐かしい感覚があった。
いつも番犬として働いてくれた彼は
夜中に忍び込んできた男から
家を守ってくれたりと
何度も危険から救ってくれた。
 
ひざの上にいる実体のない愛犬に
『一緒にお家にかえろうな』と
語りかけながらひたすらクルマを走らせると
また、
何度も通った風景が目の前に現れた。
 
もう勘弁してくれ
そう思いながら倒木の隙間を通過するとき
ひざ上に懐かしいポチのふんばる足を感じたと思ったら
懐かしいポチの声が2回、
吠えたように聴こえたのだ。
 
その時である
青白い2つの光の塊が逃げるように
左右に分かれて飛び出したのが視えた。
これから起こることの恐怖を想像したが
クルマはすんなりと倒木の隙間をすり抜けた。
 
気が付くと
満月に近い月光に照らされた道が
目の前に浮かび上がってきた。
あれ、
月が出ているなんて
さっきまで気づかなかった。
そのあと月光に照らされた道を走り続けた。
繰り返し見続けてきたあの暗闇の風景を
見ることは無くなったのである。
 
 
あれはいったい何だったのだろう?
竜神といえば、
上越高田にある春日神社から
妙高の関山神社~
長野県の戸隠神社を横断する
大きな竜がいたとの伝説があることを
思い出した。
何か関係があったのだろうか?
山に住む精霊たちのいたずら?
だったのだろうか?
なんとも不思議な体験である。
 
それにしても
また、
ポチに救われたのだな