ここ上越高田は言わずと知れた豪雪地方である。
「この下に高田あり」
と言われたころの貴重な航空写真を居酒屋:雁木亭で見たが、
高田の街は建物の2階近くまで白く埋め尽くされ
白一色の異次元の空間である。
その雪で埋め尽くされた下で
人々は生活していた。
一晩で数メートルも降り積もると、
家からどこにも行くことができなくなるのが常識なのだが
上越高田駅から16Kmにも及ぶ雁木通りとよばれる通路が
人々の足を止めることなく生活する人々を助けてくれた。
もちろん、
雪の下には様々なお店が並んでいるから生活に困らない。
特に多いのがいっぱい飲み屋なのだが
洋服屋さんから食堂、パチンコ屋、大衆浴場、煙草屋、床屋など
娯楽施設まで含めるとすごいお店が並んでいるから
正にひとつの国が雪の下にあるようなものである。
今では
大型商業施設の登場と道路の拡張で
時代の流れとともに消えていったお店は数多いが
半世紀前の歴史をそのまま残しているお店も存在している。
たとえば
冒頭触れた居酒屋:雁木亭なんかは
地元でとれた食材にこだわりぬいた
他では食べられない味を体験できる。
そしてここでしか飲めない日本酒も存在する。
ブランド力のある日本酒は確かにうまいが
実は、
激安で添加物も含まれない『ほんとうにうまい』お酒がある。
先代、先先代から引き継いだ伝統の味がそこにあるのだ。
今でも人気があるお店は
偉大な先人たちの伝統を守ってきたお店が多いようだ。
さて
今は2026年
戦後の復興から2代目が引退を考えるような
そんな頃だろう。
そんな上越高田の雁木通りだが
今でも心が洗われるような風情がある。
お盆も過ぎた昼下がり
遠く田んぼから聞こえてくるカエルのうたも消え
秋の虫の声がちらほらと聞こえる頃
海から流れてくる暖かい空気も消え
時折肌寒い風が妙高山方面から流れてくる頃
黒茶けた雁木通りの交差する場所に
くたびれて回り続けている赤青白の『くるくる』が見える
近づくと同じ間隔で『ギギッ』と異音がしている
もう何十年、回り続けているのだろうな
老舗の床屋さんだろう
今では1000円カットのお店とかの登場で
昔からの常連さんで生計が成り立っているのだろうな
などと勝手な想像をしていると
開けっぱなしの大きなガラス戸から
古びた大きめのソファーに寝っ転がっている
年配の男性が見えた。
頭を入り口側にして
脱げかけている帽子からはみ出だして見えるのは
年期を感じさせるヘアーだが
耳の上はきれいに刈り上げられ、気持ちよさそう。
そして
寝顔がほんとうに気持ちよさそうに見えるのは
おそらく木製のテーブルに置かれた安いウィスキーのせいだろう
置かれたコップはふたつ
ひとつは半分入っておじさんの横に置かれているところを見ると
飲みながら寝落ちしたのだろうな
床屋を飲み屋がわりに使って
近所の飲み友達と昔話で盛り上がっていたのかな
なんて勝手な想像すらしてしまう。
おじさんの足元には丸くなって寝ている大きな三毛猫がいる
泥がついたその顔をみると飼い猫かどうかも怪しいが
野良だとするとやけに人懐こいやつだ
散髪する椅子が2つ
お店の中には他に人影はない
だけど
くるくるは一生懸命に『ギギッ』と回り続けている。
