『ヨユウシャクヤク』 

5. キス  〜ひなげし〜

 

 

 

 

マコトと並んで

ソフトクリームを食べていると

唐突に、

 

「ねえ、ひなは”普通”って言われるのと

”変わっている”って言われるの

どっちが好き?」

 

と聞いてきた。

 

あまりにも決まり切った質問に

少し面食らいながらも、

 

 

「そんなの”変わっている”に

決まってるじゃん。」

 

 

あたしにとって”変わっている”は

最上級の褒め言葉だ。

 

 

「え?そうなの?ボクは”変わっている”

って言われると

ちょっとショックだよ…。」

 

と言うマコトの意外な答えに、

 

 

「だって『ソフトクリーム美味しい?』

って聞いて、『普通。』って言われたら

そっちの方がショックじゃない?」

 

”普通”なんて言われたら、まるで

『存在感がない。』

と言う烙印を押されたような気分だ。

 

 

「その場合は”美味しい”か”普通”か

だからちょっと違う気がするけど…。

まあ、とにかく”変わっている”は悪口だよ。」

 

 

この議論はきっと平行線だ。

 

だけどあたしにとって最上級の褒め言葉は、

相手によっては悪口に受け止められかねない…。

 

これは心のメモにしっかりと書き記しておこう。

 

 

 

 

心のメモに夢中になりすぎて唇にくっついたままの

クリームがよほど美味しそうに見えたのか、

味わうようにマコトが不意にキスをする。

 

 

彼のキスはいつも”普通”だった。

 

 

言葉に出して伝えたことはなかったけれど、

そう言えば彼は喜んだのだろうか…。

 

 

つづく