「でもよ、流石に変だと思ってさ。やり方は合ってた筈だし。」
キャラメルマキアートをひとくち、啜って男は続ける。
「はぁ・・・。」
「だから、ちょいと確かめに行った訳だ。ところが、人間の造り方を教えてくれ
たのは今、永田町でセンセイやってる方でさ。さすがにアポ無しで会うのは無理っ
てことで、代わりに知ってそうな社長がいるから新宿まで行ったのさ。」
ノリは軽いけど、さらり、とすごい内容を話してくる。
そうしたら。
「そしたらさ。間違ってないんだけど、ツメが甘いって言うんだよ。」
以下、骨の組み方がどうとか、使う薬品がどうとか、何だかラテン語っぽい専門
用語をチャラチャラした口調で30分くらい喋ってきた、が、そんなもの一度聞い
ただけで覚えられる訳がない。
とりあえず、熟成時間? と、使った香料?? や、衛生レベル設定???
とかに、重大な問題があったらしく。
(・・・・・・発酵食品なのか? 人造人間って!? )
話してる本人も面倒臭くなってきて、「もう聞きにいっておいてなんだけどさ、
俺もダチ造ろうとか考えたのがバカらしくなって。造る気無くなっちゃった。」
と、にっこり笑った。
「ま、そんなのはともかく。そん時に、聞いたんだよ。」
「何を? 」
「今の○○大臣いるじゃん? 」
○○の部分は、どういう訳か良く聞こえなかった。
聞き直すと、ちゃんと言うとマズいんだよってぼそっと言ってから、
「あれな、あれも人造人間だってよ。」
がふっ。
今度は珈琲が、気管に入った。
「ちょ、な、何て? 」
「結構な数、居るらしいぜ。そう新宿のおっちゃんが言ってた。」
それから、ぐるっと店内を見回してから、
「こん中にも、いたりしてな。」
と、にこり、と口の形を歪ませる。
他にもこの間ノーベル賞取った双子もソウらしいとか、かなり有名な医者が、
この方法使ったらしいんだけど、その時にちょっとヤバいことになったってさ。
とか、嬉しそうに語った。
「ヤバいことって? 」
「夢にさ、爺さんが出たんだと。『我は死者の王なり。我に相談もなく、何故
にこの骨を使う。』とスゴい顔で言われたんで、その医者、速攻で人造人間の
記録を全部焼き捨てたらしいぜ。」
「・・・死者の王・・・ですか・・・いったい、どの神様でしょうね? 」
男はそれには答えず、
「ま、だから。興味本位で死の領域に、手を出すなってことだ。」
と話を結んで、ウインクした。
そして、そのまま立ち去りそうな風だったので、慌てて聞いてみた。
「・・・・・・みっつ、聞いて良いですか? 」
「ああ。」
「何でスタバなんです? 」
この質問には戸惑ったようで、男はちょっと考える仕草をした。
それから、ひょいっと人差し指を立てて、店内をくるんと指差しすと、最後に
その指をカウンターの店員達に向けて言った。
「こころある、店、じゃないか。」
一首詠んで見たくなってね、と照れたように言う。
「では、ふたつめ。奥さんと娘さんはどうしてます? 」
ぶがっ
今度は。
男が珈琲を吹いた。
それは見事な珈琲吹きで、男は気まずそうに口元を拭うと、
「・・・こないだ、気になって、様子を見に行ったんだよ・・・家の門の陰か
ら。」
さっきまでのチャラさはどこに行ったのか、どんよりと男は呟いた。
「はい。」
「そしたら娘に気がつかれちゃってさ・・・娘のやつ、俺を見て何て言ったと
思う? 」
「ママーっ、変なおじちゃんが居る! 恐い!! でしょう? 」
男は、ちょっとびっくりした様な顔をして、
「そうなんだよ・・・おまけに妻にはさ、離縁が成立してるんですからもう近
寄らないで下さいとまで言われちゃうしさ・・・」
さんざんだったよ。と男は暗い声で言った。
「でも、なんで分かったんだい? 」
「それは、読んだことありましたから。」
「・・・そうかい。じゃ、みっつめの質問は? 俺も忙しいんでね。そろそろ
行かないとならない。」
「大丈夫です。お時間はかかりません。みっつめは、ご存じですかってことで
す。」
「何をだい? 」
「撰集抄って実は、西行が書いたってことにした偽書なんです。西行本人が書
いた、のでは、ないんですよ。」
それを聞くと、男は、ぱあっと明るい顔になり、にっこりと微笑んでそれっ、
それが聞きたかった! と言うような仕草をすると。
そのまま、溶けるようにその姿は掻き消えてしまった。
ぼくは、机の上に残された撰集抄を手に取ると、
スタバで一首、詠んでもらえば良かったかな?
と思いながら古い本のページをめくった。 【了】
<撰集抄>「第十五 西行於高野奥造人事」②
さても、比事不審に覚えて花洛に出侍りし時、教へさせおはしし徳大寺へ参り
侍りしかば、御参内の折節にて侍りしかば、空しくかへりて、伏見の前の中納言
師仲の卿のみもとに参りて、比事を問ひ奉り侍りしかば、「なにとしけるぞ」と
仰せられし時に、「その事に侍り。広野に出て、人も見ぬ所にて、死人の骨をと
り集めて、頭より足手の骨をたがへでつづけ置きて、砒霜と云薬を骨に塗り、い
ちごとはこべとの葉を揉みあはせて後、藤もしは糸なんどにて骨をかかげて、水
にてたびたび洗ひ侍りて、頭とて髪の生ゆべき所にはさいかいの葉とむくげの葉
を灰に焼きてつけ侍り。土のうへに畳をしきて、かの骨を伏せて、おもく風もす
かぬやうにしたためて、二七日置いて後、その所に行きて、沈と香とを焚きて、
反魂の秘術を行ひ侍りき」と申侍りしかば、「おほかたはしかなん。反魂の術猶
日あさく侍るにこそ。我は、思はざるに四條の大納言の流をうけて、人をつくり
侍りき。いま卿相にて侍れど、それとあかしぬれば、つくりたる人もつくられた
る物もとけ失せぬれば、口より外には出ださぬ也。それ程まで知られたらんには
教へ申さむ。香をばたかぬなり。その故は、香は魔縁をさけて聖衆をあつむる徳
侍り。しかるに、聖衆生死を深くいみ給ふほどに、心の出くる事難き也。沈と乳
とを焚くべきにや侍らん。又、反魂の秘術をおこなふ人も、七日物を食ふまじき
也。しかうしてつくり給へ。すこしもあひたがはじ」とぞ仰せられ侍り。しかれ
ども、よしなしと思ひかへして、其後はつくらずなりぬ。
中にも土御門の右大臣のつくり給へるに、夢に翁のきたりて、
「我身は一切の死人を領せる物に侍り。主にものたまひあはせで、なんぞ此骨を
ばとり給ふにや」
とて恨むるけしき見え給へりければ、もし日記を置く物にしあらば、我子孫つく
りて霊にとらはれなん、いとど由なしとて、焼かせ給ひにけりと聞くにも、無益
のわざと覚え侍り。よりより心得べき事にや侍らん。ただし、呉竹の二子は、天
老と云鬼の、頴川のほとりにてつくりいだせる賢者とこそ申傳へたるなれ。
キャラメルマキアートをひとくち、啜って男は続ける。
「はぁ・・・。」
「だから、ちょいと確かめに行った訳だ。ところが、人間の造り方を教えてくれ
たのは今、永田町でセンセイやってる方でさ。さすがにアポ無しで会うのは無理っ
てことで、代わりに知ってそうな社長がいるから新宿まで行ったのさ。」
ノリは軽いけど、さらり、とすごい内容を話してくる。
そうしたら。
「そしたらさ。間違ってないんだけど、ツメが甘いって言うんだよ。」
以下、骨の組み方がどうとか、使う薬品がどうとか、何だかラテン語っぽい専門
用語をチャラチャラした口調で30分くらい喋ってきた、が、そんなもの一度聞い
ただけで覚えられる訳がない。
とりあえず、熟成時間? と、使った香料?? や、衛生レベル設定???
とかに、重大な問題があったらしく。
(・・・・・・発酵食品なのか? 人造人間って!? )
話してる本人も面倒臭くなってきて、「もう聞きにいっておいてなんだけどさ、
俺もダチ造ろうとか考えたのがバカらしくなって。造る気無くなっちゃった。」
と、にっこり笑った。
「ま、そんなのはともかく。そん時に、聞いたんだよ。」
「何を? 」
「今の○○大臣いるじゃん? 」
○○の部分は、どういう訳か良く聞こえなかった。
聞き直すと、ちゃんと言うとマズいんだよってぼそっと言ってから、
「あれな、あれも人造人間だってよ。」
がふっ。
今度は珈琲が、気管に入った。
「ちょ、な、何て? 」
「結構な数、居るらしいぜ。そう新宿のおっちゃんが言ってた。」
それから、ぐるっと店内を見回してから、
「こん中にも、いたりしてな。」
と、にこり、と口の形を歪ませる。
他にもこの間ノーベル賞取った双子もソウらしいとか、かなり有名な医者が、
この方法使ったらしいんだけど、その時にちょっとヤバいことになったってさ。
とか、嬉しそうに語った。
「ヤバいことって? 」
「夢にさ、爺さんが出たんだと。『我は死者の王なり。我に相談もなく、何故
にこの骨を使う。』とスゴい顔で言われたんで、その医者、速攻で人造人間の
記録を全部焼き捨てたらしいぜ。」
「・・・死者の王・・・ですか・・・いったい、どの神様でしょうね? 」
男はそれには答えず、
「ま、だから。興味本位で死の領域に、手を出すなってことだ。」
と話を結んで、ウインクした。
そして、そのまま立ち去りそうな風だったので、慌てて聞いてみた。
「・・・・・・みっつ、聞いて良いですか? 」
「ああ。」
「何でスタバなんです? 」
この質問には戸惑ったようで、男はちょっと考える仕草をした。
それから、ひょいっと人差し指を立てて、店内をくるんと指差しすと、最後に
その指をカウンターの店員達に向けて言った。
「こころある、店、じゃないか。」
一首詠んで見たくなってね、と照れたように言う。
「では、ふたつめ。奥さんと娘さんはどうしてます? 」
ぶがっ
今度は。
男が珈琲を吹いた。
それは見事な珈琲吹きで、男は気まずそうに口元を拭うと、
「・・・こないだ、気になって、様子を見に行ったんだよ・・・家の門の陰か
ら。」
さっきまでのチャラさはどこに行ったのか、どんよりと男は呟いた。
「はい。」
「そしたら娘に気がつかれちゃってさ・・・娘のやつ、俺を見て何て言ったと
思う? 」
「ママーっ、変なおじちゃんが居る! 恐い!! でしょう? 」
男は、ちょっとびっくりした様な顔をして、
「そうなんだよ・・・おまけに妻にはさ、離縁が成立してるんですからもう近
寄らないで下さいとまで言われちゃうしさ・・・」
さんざんだったよ。と男は暗い声で言った。
「でも、なんで分かったんだい? 」
「それは、読んだことありましたから。」
「・・・そうかい。じゃ、みっつめの質問は? 俺も忙しいんでね。そろそろ
行かないとならない。」
「大丈夫です。お時間はかかりません。みっつめは、ご存じですかってことで
す。」
「何をだい? 」
「撰集抄って実は、西行が書いたってことにした偽書なんです。西行本人が書
いた、のでは、ないんですよ。」
それを聞くと、男は、ぱあっと明るい顔になり、にっこりと微笑んでそれっ、
それが聞きたかった! と言うような仕草をすると。
そのまま、溶けるようにその姿は掻き消えてしまった。
ぼくは、机の上に残された撰集抄を手に取ると、
スタバで一首、詠んでもらえば良かったかな?
と思いながら古い本のページをめくった。 【了】
<撰集抄>「第十五 西行於高野奥造人事」②
さても、比事不審に覚えて花洛に出侍りし時、教へさせおはしし徳大寺へ参り
侍りしかば、御参内の折節にて侍りしかば、空しくかへりて、伏見の前の中納言
師仲の卿のみもとに参りて、比事を問ひ奉り侍りしかば、「なにとしけるぞ」と
仰せられし時に、「その事に侍り。広野に出て、人も見ぬ所にて、死人の骨をと
り集めて、頭より足手の骨をたがへでつづけ置きて、砒霜と云薬を骨に塗り、い
ちごとはこべとの葉を揉みあはせて後、藤もしは糸なんどにて骨をかかげて、水
にてたびたび洗ひ侍りて、頭とて髪の生ゆべき所にはさいかいの葉とむくげの葉
を灰に焼きてつけ侍り。土のうへに畳をしきて、かの骨を伏せて、おもく風もす
かぬやうにしたためて、二七日置いて後、その所に行きて、沈と香とを焚きて、
反魂の秘術を行ひ侍りき」と申侍りしかば、「おほかたはしかなん。反魂の術猶
日あさく侍るにこそ。我は、思はざるに四條の大納言の流をうけて、人をつくり
侍りき。いま卿相にて侍れど、それとあかしぬれば、つくりたる人もつくられた
る物もとけ失せぬれば、口より外には出ださぬ也。それ程まで知られたらんには
教へ申さむ。香をばたかぬなり。その故は、香は魔縁をさけて聖衆をあつむる徳
侍り。しかるに、聖衆生死を深くいみ給ふほどに、心の出くる事難き也。沈と乳
とを焚くべきにや侍らん。又、反魂の秘術をおこなふ人も、七日物を食ふまじき
也。しかうしてつくり給へ。すこしもあひたがはじ」とぞ仰せられ侍り。しかれ
ども、よしなしと思ひかへして、其後はつくらずなりぬ。
中にも土御門の右大臣のつくり給へるに、夢に翁のきたりて、
「我身は一切の死人を領せる物に侍り。主にものたまひあはせで、なんぞ此骨を
ばとり給ふにや」
とて恨むるけしき見え給へりければ、もし日記を置く物にしあらば、我子孫つく
りて霊にとらはれなん、いとど由なしとて、焼かせ給ひにけりと聞くにも、無益
のわざと覚え侍り。よりより心得べき事にや侍らん。ただし、呉竹の二子は、天
老と云鬼の、頴川のほとりにてつくりいだせる賢者とこそ申傳へたるなれ。