『晩夏の墜落 〔上〕』(ノア・ホーリー、川副智子訳・ハヤカワ文庫)を読んだ。
夏の終わりの夜、大西洋上にプライベートジェットが墜落した。たまたま乗り合わせた画家のスコットは、洋上で男の子を見つける。陸まで何マイルあるかわからない真っ暗な海を男の子を抱えて泳ぎ切ったスコット。メディアは彼をヒーロー扱いするが、墜落の原因がわからないなか、彼を疑う向きもあって……。
プライベートジェットに乗り合わせていたのは、保守派のニュース専門局の代表とその妻と子供たち。バカンスを終え、ニューヨークに帰る知人の銀行家とその妻も同乗していた。ニュース専門局の代表も銀行家も超が付くほどの金持ち。しかも、番組での司会者の過激な発言を容認したり、マネーロンダリングをしていたりと、裏がある人物。
そんな彼らの乗ったプライベートジェットが大西洋上に墜落した。墜落機の回収や遺体の捜索も進まないため、調査団も墜落原因がわからない。そんななか、メディアは陰謀説を唱え始める。男の子の命を救ったヒーローと見られているスコットが墜落にかかわっているのではないか、と。
という、他人が必死になって隠したがる裏の顔をのぞき見たい! という欲求を見事に満たしてくれる『晩夏の墜落』。誰にだって、他人には言えない、言いたくないことってあると思う。ニュース専門局の代表や銀行家のように法を犯すような大事ではなくとも、彼らの妻たちのようなワーカホリックな夫に対する積もり積もった不満とか。
そんな野次馬になった気分で、超お金持ちの人たちの生活を(彼らが隠したがる裏の部分を)見ることができるサスペンス・ストーリー。ワイドショーをにぎわせてくれるセレブと呼ばれる人たちがどんな生活を送っているのか知りたいという欲求は、万国共通のようだ。しかし、彼らにも守られるべきプライバシーはある。パブリックフィギュアとはいえども。
また、事件や事故や天災などニュースに映し出される被害者や被災者のプライバシーをどうやって守っていくか。誰もが発信者になれるこの世界で、情報源の秘匿やネットを使っての被害者や被災者の特定をさせないためには、それぞれがもつ野次馬根性をどう封印するかにかかっている。知りたいという欲求と守られるべきプライバシー。これらについて、個人の倫理観を見つめなおす物語だ。
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晩夏の墜落 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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