彼女は物心ついた頃から
家に帰ったら必ず玄関や
部屋の戸は閉めるよう、
母親からしつけられていた。
『戸やふすまが開いていると
そこから誰か覗くんだ』
『それは隙だ』
『生活で隙を出したらダメだ』
『身だしなみもきちんとする、
礼儀作法もきちんと守る、それと一緒』
『部屋にも隙を作ったらダメだぞ』
彼女はその言いつけを良く守り、
戸締りは習慣となった。
ところがある日、
部屋のふすまが少し開いていることに気がついた。
あっ!と思って、
ふすまを閉めようとすると・・・
見知らぬおばあさんが
そのすきまからこちらを覗いている。
腰の曲がった小さな体で
顔はしわくちゃ、
しかし表情は恐ろしく、
彼女をキッ!と睨み付けると・・・
『バンッ』
ふすまを閉めた。
その後しばらくは
ふすまの向こうの部屋に
怖くて行けなかった。