結納のため実家に帰った。
一日目については旦那さんの日記にあるとおりで、
私も、同じような理由で結納をして頂けて良かった、と思った。
夜、秀行さんとお義父さんはお帰りになり、私だけ実家に一泊した。
明けて日曜日、朝はのんびり休んで、久しぶりにお父さんが仕事に出るのを
寝ぼけた顔で見送った。
なんというか、貴重なはずなのに、いつもと同じ見送りになってしまった。
お天気に恵まれた昼
「お嫁入りなんだから、ちゃんとタンスと鏡台くらい
買わんといけんじゃろう」とおばあちゃんが言ってくれて、
恩師が経営されている家具屋さんに向かうことになった。
海岸をバスに揺られて40分、三原まで。
車窓から見える瀬戸内海は、本当にきれいで穏やかで優しくて。
他に誰も乗っていないバスで、おばあちゃんと二人左列の席に前後で座って
一緒に右側の窓いっぱいに切り取られた海を眺めた。
この時間がずっと続いたらいいのに、と本気で思った。
そうはならないから、美しいと感じるのだろう。
このシーンは、一生忘れないと思う。
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家具屋さんで、ベッドやタンスや鏡台を見て回った。
一つのタンスに目を引かれた。
見た目はいたってシンプルで、華やかさなども特にないんだけど、
開くと桐で出来ていたり、引き出しを出し入れするときちんと隣の引き出しが動いたり、
隠し棚があったり、着物が入るサイズに合わせた幅だったりとしっかりとしたものだった。
これが今時の「婚礼タンス」なのかぁ。技術をデザインが包んだ感じ。すごいなぁ。
母が結婚した頃などは「婚礼7点家具」なんてセットがあったらしい。
飾りが豪華で大きさもあり、100万円だの200万円だの出して買う人もいたようだ。
確かに、母のタンスは黒塗りで飾り戸が付き、鏡台も仏壇ほどの大きさがある。
よく「家具の大きさのために、引っ越す家を選ばんといけん」と贅沢な愚痴をこぼしていた。
そして「いつかこれはたみちゃんがお嫁に行く時にあげるからね」と言われて育った。
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家具屋さんを継いだばかりの二代目社長さん曰く、
昔、広島は“府中家具”で全国の婚礼家具の9割近くのシェアを占める
県だったそうだ。それが、輸入材の台頭、タンス離れ、価格下落で衰退し、
最盛期から現在までで、約半数の家具屋が廃業してしまったらしい。
というのも、当時、婚礼家具の利益率は実に7割。粗利益を稼ぎまくっていたようだ。
想像するに、その利益率に基いた人件費や経費を使い続けていたり
人々のライフスタイルの変化の波についていけなかったりしたところが、淘汰されたのだろう。
ついつい仕事っぽく、そんなことを考えていたら、隣でおばあちゃんが一言、
「商売は、適正価格じゃないと続きませんね」と笑った。
シンプルな表現に人生経験が集約されている気がした。本当、そうなんだろうね。
そのタンスを1棹、お願いすることにした。
幅や高さをオーダーして、製作にかかるという。
おばあちゃん、本当にありがとう。
広島で作られる、一生モノの婚礼タンス。
これまで何人の花嫁の嬉しさや緊張する気持ちを代弁してきたのだろう。
何十年後かの私は、タンスを開きながらあの海の景色を思い出して
子供にきっと母と同じ言葉をかけるだろう。