※完レポです。ネタばれ嫌な方はブラウザバック!!
(他のを持ってくれば良かった……)
「クマさんかよ……」
入江さんがハンカチを見つめ、思わず呟いている。
「ま。アンタらしいよな」
入江さんは小さく笑うと、クマさんハンカチを口元の傷に当てた。
「洗って返すから。借りといてもいいか?」「あ……はい」
私は穏やかに笑う入江さんに向かって、コクリと頷いた。
吉「……じゃあ、決着も着いたし」「帰んぞ?○○」
吉良くんが不満そうに口をとがらせ、私と入江さんの間に割って入った。
「う……うん」
(本音を言うと……)(もう少し、傍にいたい……)
私は入江さんの顔を、そっと上目遣いに見つめた。
「……」
入江さんが困ったように足元に視線を落とした。すると、寝転がっていた加賀見さんが、ゆっくりと立ち上がった。
加「行けよ。入江」「……英男さん」
加「黒崎は出直しだ……」「だからよ。白浜の連中を観察して報告しろや」
加賀見さんが少し恥ずかしそうに口の端を上げて微笑んで、入江さんの肩をポンと叩いた。
大「……あんな怖そうなツンデレ。生まれて初めて見たわ」
大地くんが大げさにのけ反っている。
真「照れの中にある真の男らしさ。俺は美学を感じずにはいられない」
真山くんがあごに手を置き、感心した様子で頷いている。
哲「俺が後は片付けとくからよ。行けって、入江」
哲さんが、入江さんの背中を軽く叩いた。
吉「ったく。喧嘩ばっかの馬鹿どもは、やり取りがめんどくせーな」「おら!○○!入江!行くぞ!」
吉良くんが手で“行くぞ”と合図をすると、出口の方へと真っ直ぐに歩き出した。
「指図してんじゃねぇよ……。ったく」
入江さんがそう言いながらも、私と歩調を合わせて歩き始めてくれた。
廃工場の外には、オレンジ色の夕焼けが広がっていた。隣を見上げると、燃えるような夕陽に入江さんの頬が染まっていた。
「入江さん……。ケガ、大丈夫ですか?」「あ?別に……」
私は心配そうに入江さんを見上げたけれど、入江さんは少し頬を赤らめ、すぐに横を向いてしまった。
石「○○の視線がくすぐったいみたいだよ。入江は」
大「お前、タフになったよな」「ガキの頃はすぐ泣いてたのにな」
石森くんと大地くんが入江さんを見て、いたずらっ子のように微笑む。
「うるせぇ……。殺すぞ、おめぇら」
言葉じりは荒かったけど、入江さんは照れて耳まで真っ赤になっていた。
吉「腹減ったし。ラーメンでも食って帰ろうぜ」
吉良くんがうーんと背筋を伸ばしながら、みんなの顔を見渡した。
石「俺、パス」
石森くんが小さく溜め息をついている。
「どうした?石森」
「バットでわき腹、殴られたからさ……。家帰って、寝たいかも」
石森くんが片目を閉じて、わき腹を軽く押さえている。
「大丈夫なの?石森くん」
私は両手を握り締めて、石森くんを見つめた。
「病院行けよ」
明らかに一番重傷な入江さんが、石森くんを心配そうに見つめている。
全員「「お前こそ行け!」」
全員が一斉に突っ込み、その後、温かな笑い声に包まれた。肩を並べて歩く私達の影が夕陽に照らされ、細く長く伸びていた。
大「そんでさ。こいつが川で溺れてよ」「ギャアギャア、泣くんだぜ!」
「うっせー。馬鹿。黙って歩け」
それから私達は、入江さんと大地くんの想い出話を聞きながら、白浜へと向かう道を歩いていた。
気が付けば、黒崎と白浜を隔てる国道に辿り着いている。
私達が横断歩道を渡っていると、一番後ろを歩いていた入江さんが、ふと立ち止まった。
「感謝はしてるけどよ。俺はそっちには行けねぇ」
「どうかしたんですか……?」
「今回、こんなことになっちまったが……。俺は黒崎だからよ」
思いのこもった入江さんの言葉を聞いて、みんなの表情が一斉に引き締まった。
(……入江さん)
<選択肢>
A.信号は青ですよ
○B.渡ったら終わりじゃないです
C.信号が変わっちゃうよ
続く