※完レポです。ネタばれ嫌な方はブラウザバック!!
 
 
「ったく。しょうがねぇな。うちの大将もよぉ」「あの……」「アンタ。マジで吉良と高柳には近付くなよ」
 
入江さんが諭すような視線で私を見ている。
「あっ……はい」「行くぞ。哲」
 
入江さんが、哲さんの背中をドンッと突き飛ばした。
「……ああ」
哲さんが不満そうな顔で口を尖らせながら、店から出ていった。入江さんはテーブルに千円札を置くと、一瞬、寂しげな表情で私を見た。
(入江さん……?)「……」
一瞬、瞳を閉じたその表情は、少し影を持っているように見えた。そしてそのまま、振り返ることもなく、ドアの方へと向かっていった。
 
「……やっぱり」「白浜と黒崎が仲良くするのって。難しいのかな」
 
店から出ていく入江さんと哲さんを見て、私はふとそんな事を考えていた。そして、すっかり冷めてしまった紅茶を口に含むと、入江さんが飲んでいたコーヒーカップに視線を落とした。
(ちょっと、緊張したけど……。楽しかったな)(“コーヒーを飲む時、ミルクを数滴落とすだけ”)1人で座っている席に、2つのカップが置かれている。先程まで入江さんが目の前にいたのが嘘のような気がして、私は少し寂しくなってしまった。
 
吉「何、やってんだよ?○○」「……ん?」
 
顔を上げると、窓に人影が近づいてきた。
 
大「ちょっと前に流行った“おひとりさま”ってヤツか?」
 
吉良くんと大地くんが窓に張り付いて、私を見ている。
 
「わぁっ!」藤「違うぞ。吉良」真「俺達は確かに目撃した」「黒崎の入江と楽しげに歩いているところをな!」
 
いつの間にか、藤瀬くんと真山くんも現れ、吉良くん達と一緒に喫茶店に入ってきた。
 
吉「お前。あれは不良よ?怖いのよ?」「拐われて、売り飛ばされっぞ!」
 
吉良くんが矢継ぎ早に話しかけてくる。
(吉良くん達も負けないくらいの不良だけどね……)
 
「そんなことないよ……。みんなが言うほど悪い人じゃないよ」大「まぁ。昔はあんな冷めた目した奴じゃなかったんだけどよ」
 
大地くんが昔を思い出すように、窓の向こうの空を見上げている。
 
「大地くん、入江さんのこと、知ってるの?」大「ガキの頃。ちょっとな」
 
(そっか……大地くん、中学まで白浜に住んでたんだもんね)
 
真「ふむ。どうやら非行に走った訳ではないようだな」藤「あんまり心配させるような真似、するんじゃねぇ」
 
(ふふっ……)(みんなはいつも通りだね)
先程までの少し寂しかった気持ちが、徐々に薄らいでいくのを感じる。
(だけど……)(入江さんは仲間達といても、どこか孤独に見えた)
 
「入江さん……寂しそうだった」
 
私はみんなのいる前で、小さく呟いてしまった。
 
真「駄目だ。これは重症だぞ」
 
真山くんが、手で顔を覆って首を振った。
 
大「よし!そこんとこ、お兄さんに相談してみなさい!」「同い年だよ!」
 
胸を張って言い放つ大地くんに向かって、私は思わず、突っ込んだ。
気がつけば、入江さんのことを考えている、私。入江さんの寂しげな横顔が、頭に浮かんでは消えてゆく。少しだけ気付いてしまった心の変化に、私は自分でも戸惑っていた。
 
 
2話終了