大滝詠一 恋するカレン | 半兵衛のブログ

半兵衛のブログ

映画やドラマ好きなので映画やTVドラマのレビュー、ビートルズ関連の曲紹介や、古い洋楽ロック、気になるJポップスのレビューをしています。ペタは見ません、いいねを中心に訪問しています。

恋するカレンは1981年3月に発売された、大滝詠一さんのアルバム「A LONG VACATION」の収録曲

 

アメリカやイギリスのロックの名盤アルバムは何枚もありますが、正直、日本のロック(ポップス)のアルバムはアルバム全体で何かを表現するというトータルコンセプトという考えが無く、単発のヒット曲を出すことに夢中で、出来上がったアルバムはなんの関連性も無い曲の集まりになってしまいます。ですから、私は基本的にベスト盤さえあれば十分だと思っています。

 

そんな日本のポップスの歴史の中で、真っ先にこれは、いいアルバムだと思いつくのは、サディスティック・ミカ・バンドの「黒船」と、今回紹介する大滝詠一さんの「A LONG VACATION」です。

 

最近も何度も繰り返して聞いているアルバムで、トータルコンセプトのアルバムとは言い難いかもしれませんが、一曲めで、コンサート会場での調音風の曲から始まり、アンコール風の手拍子で、アンコール曲として、「さらばシベリア鉄道」で締めくくられます。 かなり全体の調和を意識したアルバム作りになっています。ハズレの曲が一曲も無く、飛ばして聞く曲がありません。何よりすごいのは、一聴してわかる大滝詠一さんのフィル・スペクター風のサウンドです。 洋楽ファンなら、ベンチャーズや、ビーチボーイズや、オールディーズの影響を随所に見つけることができるでしょう。

 

何度も繰り返して聞いているうち、一どうしても引っかかる曲があります。それが、「恋するカレン」です。サウンドは「君は天然色」と遜色ないど完成度の高い曲です。

 

-----------------------------------------------------------------------------------

恋するカレン

                                        ソングライター 松本隆 / 大滝詠一

 

キャンドルを暗くして

スローな曲がかかると

君が彼の背中に

手を回し踊るのを

壁で見ていたよ

 

振られるとわかるまで

何秒かかっただろう

誰か話しかけても

ぼくの眼は上の空

君に釘づけさ

 

Oh! KAREN 浜辺の濡れた砂の上で

抱き合う幻を笑え

Oh! KAREN 淋しい片想いだけが

今も淋しいこの胸を責めるよ

 

ふと目がうたび

せつない色の

まぶたを伏せて

頬は彼の肩の上

 

かたちのない優しさ

それよりも見せかけの

魅力を選んだ

 

Oh! KAREN 誰より君を愛していた

心を知りながら 捨てる

Oh! KAREN 振られたぼくより哀しい

そうさ哀しい女だね君は

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

歌詞を全く追わなければ、単なる失恋ソングで、ビートルズで言うところの「ノーリプライ」的な曲かと思っていたのですが、実は、変態ストーカー?の曲なのです。

 

ダンスパーティーで、カレンが他の男性と踊るのを、壁際で見ているのです。

 

主人公はカレンに告白したと、一行も書いていません。

「形のない優しさ」と表現していますが、おそらく言葉に出して彼女に伝えておらず、一方的な片想いと思われます。

そして彼女が一緒に踊る男は、主人公のいう「見せかけの魅力」をもった男なのでしょう。

 

主人公は妄想の世界で、カレンと「砂浜で抱き合う」ことをまでも想像しています。

 

そんなカレンは彼と踊っているときに何度も主人公と眼があいます。

気持ち悪いストーカーに見せつけためにも、彼女は楽しく男性と踊り続けます。

 

告白もせずまだ始まってもいないのに、勝手に妄想して、ダンスで踊る相手にも選ばれれず、他の男と踊るところ見て、勝手に振られると思い込み、「悲しい女だね君は」と最後に捨て台詞まで残してこの曲は終わります。

 

実のところ変態ストーカーのような設定ではありますが、恋人のいない男なら、いい人と思える女性に出逢えば、いきなり声などかけずに、どんな女性なのかと、密かに興味を持ち、観察してしまうし、だんだん心が傾いていけば、思い切って声をかけようと心に決めるはずで、この曲はちょうど声をかける前段階に起きた出来事なのです。誰にでもある普通の恋心をいだき始めた時に、見た目のいい男とダンスをする様子をみて、きっと心のなかで「僕こそが本当に君を大切にできる人なのに・・・」と思った事でしょう。そして、カレンが無言で、「あなたなんかに興味はない」という強烈な視線を送られて、「女なんて星の数だけいるし、僕を選ばなかった事を後悔させてやる」ぐらいの気持ちだったのだと思います。

「心を知りながら捨てる」セリフから、カレンはうすうす主人公の気持ちに気づいていただろうと思われますが、どちらにせよ、カレンは主人公を選びませんでした。

 

松本隆さんの理不尽な男心を描いた歌詞に、美しいメロディーとウォールサウンド、そして、独特の歌唱で、見事に命を吹き込みました。