とっ散らかるので、時事ネタはやめようかとも思ったけど、ISILに関してはこれまでにも、触れてきたので、これはやっておきたい。失敗したなぁぁぁぁ。

邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会 検証報告書」(2015年5月21日)

 


<感想>

率直に、不満の残る内容。一方で、詳細を公表できないという事情もわかる。それでも、事実関係に裏付けがとれないこともあり、時系列にきれいに整列しているお話を読むと、作文という印象を拭いさることができない。基本としては、それまでに公開された情報を追認している。これだけでは、何も判断することはできないな。


報告書の概略

時系列で3つの期間に分ける。

  • 1. 湯川氏の失踪発覚後の対応(2014年8月-)
  • 2. 後藤氏の失踪発覚後の対応(2014年12月3日-)
  • 3. 殺害予告動画公開後の対応(2015月1月20日-)

各期間において、検証を試みる

  • 【事実関係】
  • 【論点】(期間で順に3,4,6項目)
  • 【評価・検討】
  • 【有識者との議論における指摘及び課題】

政府の調査について、総評的に外部有識者がコメントを添える形式となっている。1.2.の期間の政府対応が明らかにされたけど、具体性に乏しい内容。これは政府の諜報能力みたいな機密になるので、仕方ないかもしれないけど、不満。掲げられている論点は、的を射ているとおもうけど、その検討内容は果たして充分に応えているだろうか。


<論点:総理のスピーチの表現は適当だったか>(p.16)

個人的に関心があったところを。以前(中東スピーチの池内氏の解釈の疑問 中途雑感)にも書いたけど、安倍首相が中東まで行って、 「人質がいるにもかかわらず、ISILに言及したこと」 は強い疑問がある。

 

政府の検討によると、 「スピーチ案を検討した時点で、政府としては、邦人が確かに拘束されていると認識し、犯行主体を特定するには至っていなかったが、様々な可能性がある 中でISILである可能性も排除されないとの認識であった。(p.17)」 との弁明をしている。

 

一方で、有識者からは、 「ISILであると特定できないとしても、強い推定を働かせることは可能である(p.11)」との指摘がされている。 推定と確定の間に命がある。

 

時系列で整理すると、こんな感じ

  • 11月1日 後藤氏の家族が政府に相談
  • 12月3日 後藤氏夫人にメールによる接触があったことを把握
  • 12月17日 安倍首相が「日エジプト経済合同委員会」でISILに言及
  • 12月19日  「犯人から後藤氏夫人へのメールによって、後藤氏が確かに拘束されているとの心証を持つに至った(p.44)」
  • 12月20日 殺害予告動画公開

19日のメールは20日の動画に関連する内容だという強い推定が働くので、タイミングについては、17日のスピーチが影響したという強い推定が働く。訪問直前(16日午前羽田発)にスピーチをセットしたとのこと(p.17)なので、15日もしくは16日早朝に後藤氏の運命は確定したことになる。(仮に19日のメール内容が20日の動画と無関係ならば、19日に確信を得たという期日は作為という強い推定が働く)

 

接触を確認してから10日間余りの間に進展はあったんだろうか?スピーチは2通り用意するのが普通じゃないの?不明な点が多すぎて、隠し事が多いとしかいえない

 

日本の情報収集力が不足しているのは仕方ないし、 「テロには屈しないとの基本的立場を堅持(p.12)」 する以上、この結末は避けがたいものだったかもしれない。それでも見限るのが早くない?

スピーチの語句について

ISILという単語を2回使用している。日英をそれぞれ引くと

中庸が最善:活力に満ち安定した中東へ 新たなページめくる日本とエジプト 2015年1月17日 於・日エジプト経済合同委員会

イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISIL闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。

Speech by Prime Minister Abe "The Best Way Is to Go in the Middle"

We are also going to support Turkey and Lebanon. All that, we shall do to help curb the threat ISIL poses. I will pledge assistance of a total of about 200 million U.S. dollars for those countries contending withISIL, to help build their human capacities, infrastructure, and so on.

ISILが日本語を読める可能性は低いとはいえ、闘うというリスクが高い単語を選択している。一方で、英語はcontending withを採用していて、fight with や make war on は使わずに配慮が感じられる、まあ、ニュアンスはわかんないんだけど。

 

ちなみに、政府の【評価・検討】では、外部有識者の池内恵氏の分析(「イスラーム国」は日本の支援が「非軍事的」であることを明確に認識している」)と同じ意見を出しているけど、【論点】は「 ISILを刺激するものではなかったか。(p.16) 」なので、少なくとも口実になったということは事実で、その前の経過も含めて報告書内で考える限り、不用意だったという批判は免れないとおもう


<外部有識者について>

池内恵(サトシ)氏

ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」。なぜかよくわかんないけど、氏のブログの内容の専門性がどんどん高くなって、対象にする読者層を変えたらしい。ただ、講義っぽいエントリーもあって、幅広い内容になっている。仕事の勤務評価につながってるのかなあ?

閑話休題。報告書に関する氏の感想。「人質事件の検証委員会報告への反応を目にして」言いたいことは理解できるけど、外部有識者としては、その舌鋒を少しは政府に向けてもいいんじゃないかとおもう。そんなに政府批判多かったかなあ?

長 有紀枝氏

難民を助ける会理事長。本報告の感想理事長ブログ第14回「もう一つの『シリア邦人人質殺害事件』の検証」」説得的な内容で、人間としての悩みと専門家としての意見と2つの人格が垣間見える。安保のエントリーも合わせて読んだけど、独自の路線を進むひとかな

小島 俊郎氏

㈱共同通信デジタル執行役員・リスク情報事業部長。ブログの発信はしてないようで、堅実なひとだな。専門がちょっと関心の対象とずれたのでパス

田中 浩一郎氏

日本エネルギー経済研究所常務理事・中東研究センター長。本報告の感想はよくわからないけど、イスラーム国に関する認識を。「イスラーム国をめぐる諸問題 田中浩一郎 日本エネルギー経済研究所中東研究センター長/ 保坂修司 同副センター長 2014年12月4日」(参照:日本記者クラブ

本人は言わないけど、うまい解決案は浮かんでなさそうで、まず、泥沼の現実をしっかりと認識することから始めようみたいなところが本音っぽい。実際にその通りで、有効な対策は未だに見つかっていないように見える

宮家 邦彦氏

立命館大学客員教授。外部者の体裁を繕うために、大学の肩書を使ったのかな。この人は、完全に内部の人だとおもうんだけどな。さすがにバランスが悪すぎるんじゃないかとおもう。いまいち、立ち位置が見えない。


<蛇ノ足>

安倍首相は、超優秀なスピーチライターがいるのに、これは失態だとおもう。なぜなんだろう、謎が多すぎ。そういえば、『美しい国へ』は、ライターが優秀すぎて、ちょっと微妙だったような気がする。