北海道・旭川市でFM番組(*)のパーソナリティをつとめるアサリ(浅利豪)と、経営学者のコーキ(佐藤耕紀)によるクラシック音楽談義。2人は高校の同期で、かれこれ40年のつきあい。
* FMりべーる「クラシックにくびったけ」
https://fm837.com/program/classic-ni-kubittake/
https://clatake837.amebaownd.com/
* 経営学者佐藤耕紀のブログ
https://management-study.hatenablog.com/
コーキ 次のおすすめは、クリュイタンス(Andre Cluytens、1905~1967年)指揮、フランス国立放送管弦楽団(1952年、モノラル)。
クリュイタンスが47歳になる年の録音。
彼の「シェエラザード」の録音は、(知られているかぎり)この1回だけ。
ヴァイオリン・ソロは、糸を引くような輝かしい美音。
往年の名ヴァイオリニスト、フランチェスカッティ(Zino Francescatti、1902~1991年)を繊細にしたような音色。
名前が記載されていないけど、誰なんだろう。
アンセルメのパリ音楽院管弦楽団(1954年)で紹介したネリーニの音色に似ている気もする。
ゆったりしたテンポで、力強く、味わい深い演奏。
フランスの名手たちの音色を楽しめる。
モノラル録音だけど、音はまずまず。
定盤と言ってもいいと思う。
アサリ クリュイタンスは、印象でいうとフランス音楽のスペシャリストだね。
だけど、彼はベートーヴェン、シューマン、ワーグナーなど、ドイツ物も得意とした。
また、ムソルグスキー、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチなど、ロシア物でも名演を残した。
そのあたりが、ほかのフランス系の指揮者とは違うところ。
言語も文化も多様な、ベルギーの出身ということもあるのかな。
コーキ ベルギーといえば、僕らの世代は子供のころ「フランダースの犬」というアニメを見たよね。
ちなみに、これを書いている時点では、公式サイト(https://www.nippon-animation.co.jp/work/843/)から、第1話を無料で見ることができる。
原作者がイギリス人だからか、アニメでは「フランダース」(Flanders)や「アントワープ」(antwerp)など、地名が英語の表記だった。
実際には、ベルギーの北部ではオランダ語、南部ではフランス語がよく使われるはず。
「フランダース」はオランダ語では「フランデレン」(Vlaanderen)、フランス語では「フランドル」(Flandre)で、ベルギー北部の「フランドル地方」のこと。
「アントワープ」はオランダ語では「アントウェルペン」(Antwerpen)、フランス語では「アンヴェルス」(Anvers)。
ちなみに、アントワープの駅舎は美しい建築で、私もそこで列車を乗り換えたことがある。
ベルギーで列車の旅をすると、駅名がオランダ語とフランス語で表記され、私は英語で覚えていたりするので、かなり混乱する。
フランダースの「ブリュージュ」(オランダ語Brugge、フランス語Bruges)という美しい街に泊まったこともあった。
そのときはブリュージュのコンセルトヘボウ(「コンセルトヘボウ」は、オランダ語で「コンサートホール」の意味)で、ヘンデルのオラトリオ「復活」を聴いた(演奏は「La Risonanza」というアンサンブルだった)。
話が脱線したけど、クリュイタンスはアントワープの出身。
ベルギーはフランス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルクと国境を接し、歴史的にも複雑な国だから、クリュイタンスは多彩な文化のバックグラウンドをもつのかな。
クリュイタンス指揮、フランス国立放送管弦楽団(1952年)のCD裏ジャケット。
コーキ カラヤン(Herbert von Karajan、1908~1989年)指揮のベルリン・フィル(1967年、59歳になる年)は、最も人気のある演奏のひとつじゃないかな。
こういうポピュラーな名曲は、カラヤンが得意にするところ。
ベルリン・フィルの実力も、いかんなく発揮されている。
壮麗で絢爛で甘美な、完成度の高い演奏。
ヴァイオリン・ソロは、コンマスのシュヴァルベ(Michel Schwalbe、1919~2012年)。
安定感のある正統派で、清澄にしてロマンティックな音色。
DG(ドイツ・グラモフォン)の録音も優秀。
文句のつけどころがなく、決定盤ともいえる。
アサリ 私は、基本的にカラヤンが苦手。
だけど、「シェエラザード」のようなロシア物や、R・シュトラウス(Richard Strauss、1864~1949年)などの標題音楽は、カラヤンが得意とするところだね。
この「シェエラザード」も、ベルリン・フィルのゴージャスな魅力と、機能性を活かした演奏。
この曲を1度しか録音しなかったのは、カラヤンらしくないんじゃない?
コーキ カラヤンはたいてい、ポピュラーな名曲を何度も録音しているよね。
「シェエラザード」では、この1回で心残りのない演奏ができたのかな。
カラヤン指揮、ベルリン・フィル(1967年)のCD裏ジャケット。