北海道・旭川市でFM番組(*)のパーソナリティをつとめるアサリ(浅利豪)と、経営学者のコーキ(佐藤耕紀)によるクラシック音楽談義。2人は高校の同期で、かれこれ40年のつきあい。
* FMりべーる「クラシックにくびったけ」
https://fm837.com/program/classic-ni-kubittake/
https://clatake837.amebaownd.com/
* 経営学者佐藤耕紀のブログ
https://management-study.hatenablog.com/
コーキ さて、この曲の名盤について語ろうか。
アサリ 私の鑑賞のポイントは、「この曲の独特な雰囲気や世界観や、各楽章の標題をどう表現しているか」というところ。
最初のおすすめは、ロストロポーヴィチ(Mstislav Rostropovich、1927~2007年)が指揮するパリ管弦楽団(1974年)。
この演奏は昔から好きで、私にとってこの曲の基準になっている。
コーキ ロストロポーヴィチは、まずチェリストとして有名だよね。
彼のチェロと、カラヤン率いるベルリン・フィルが協演したドヴォルザークのチェロ協奏曲(1968年)は、この曲の決定盤ともいわれる。
アサリ 「シェエラザード」を録音した1974年は、ロストロポーヴィチが政府と対立してソヴィエトを離れた年。
その後のショスタコーヴィチの数々の名演を予感させる、充実した演奏だと思う。
指揮者ロストロポーヴィチの、キャリア初期にして代表的な録音。
コーキ ダイナミックで、スケールが大きいね。
悠々たる表現で、油絵のような色彩感がある。
終楽章の盛り上がりは凄まじい。
この演奏を絶賛する人も多いけど、私の好みでいうと、ちょっと微妙なところもある。
冒頭から、音質や残響がどこか不自然な気もする。
有名なミュンシュ指揮・パリ管弦楽団のブラームス交響曲第1番(1968年)の音も似た印象なので、オケ(パリ管)やホール(サル・ワグラム)やレーベル(EMI)の特徴かもしれないけど。
また、私には表現が濃厚すぎて少々しつこく感じられる。
テンポもところどころ遅すぎて、間延びするように思える。
後で紹介するアンセルメのような、軽快なリズムの演奏で口直しをしたくなる。
人によって好みの分かれる、個性的な名盤かもしれないね。
ロストロポーヴィチ指揮、パリ管弦楽団(1974年)のLPジャケット。
アサリ ロシア音楽はロシアの指揮者で、という方におすすめしたいのが、ゲルギエフ(Valery Gergiev、1953年~)指揮のキーロフ歌劇場管弦楽団(2001年)。
ゲルギエフのロシア作品は濃厚な色彩が特徴で、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーなど、概ねハズレはない印象。
「シェエラザード」も、上品すぎず燃焼度が高く、ゲルギエフらしい。
録音も文句なし。
コーキ ねっとり濃厚、美しく味わいのある演奏だね。
私にはやや油っこくも感じられるけど。
安定感があり、完成度も高く、定盤のひとつには違いない。
終楽章の盛り上がりは凄まじい。
ゲルギエフ指揮、キーロフ歌劇場管弦楽団(2001年)のCD裏ジャケット。
アサリ ストコフスキー(Leopold Stokowski、1882~1977年)指揮、ロンドン交響楽団の演奏(1964年)も、古くから人気がある。
ストコフスキーは一流のエンターテイナー。
奇をてらう芸風で、サービス精神が旺盛。
「シェエラード」でもストコフスキー節が炸裂するけど、他の曲よりは少し控えめかな。
なかなかの好演だと思う。
コーキ ちょっと大げさな表現で、ストコフスキーらしい演奏効果へのこだわりを感じるね。
たしかにドヴォルザークの新世界交響曲とは違って、極端に楽譜をいじるようなことはしていない。
一流オケのコンマス(コンサート・マスター)は名手ぞろいだけど、この演奏のグリューエンベルク(Erich Gruenberg、1924~2020年)も、極上のヴァイオリン・ソロを聴かせてくれる。
よく響く(開放弦と共鳴する)音程をとっているのか、平均律とはちょっと違うメロディーに聴こえる。名ヴァイオリニストのエルマン(Mischa Elman 1891~1967年)を彷彿とさせるような、ロマンティックで情感豊かな演奏。
録音は、強奏部などで音が割れるけど、十分に楽しめる。
ストコフスキー指揮、ロンドン交響楽団(1964年)のCDジャケット。