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"過去"の引き出しに仕舞い込んだはずの苦い体験が、
何かの拍子に、記憶の水面に顔をのぞかせる。
そんなご経験、あなたにもありませんか。
これは、少し前の私の記憶。ずっと封印していたお話です。
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私が関わる演奏会に、足繁くご来場くださり、
熱心に応援していただいていた初老の紳士さまがおられました。
いつも、楽屋に届けられる花束には、必ずカードが添えられていて、
そこには、短いけれど洒落た言葉が綴られていたものです。
でも、ある日のこと。それに代わって、普通のレターが付いていました。
『残念ですが、今後は、音楽会に来る回数を減らしたいと思います。
長引く不況は、私のポケットマネーにも影響があり……(略)
……「音楽は不要不急のもの」なので、申し訳ありません。』
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来てくださるお客様が減ってしまうのは、興業的にツライ。
でも、それ以上に私は、この方が"一番の楽しみ"と言われていた音楽会から
距離をおくことで、大きな喪失感に苛まれていらっしゃるかもしれないと、
とても心配になった。
お食事が肉体の栄養なら、大好きな音楽は心のエネルギー。
私たちの身体は、体と心が車の両輪で、どちらかが欠けても
きっと、何かの形で不具合が起こる気がするの。
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世の中を見渡しても、先行き不安で、消費の手控えが起こっている。
衣食住に比べて、嗜好品と同じく『音楽は不要不急のもの』だから、
後回しにされやすいのかもしれない。
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でも、TV番組やCMなどのBGM、そして街をお散歩していても、
私たちの周囲は、どんなカタチにせよ「音楽は必ず存在」する。
「音のない世界なんて、想像できないでしょう。」
じつは、私たちにとって『音楽は不要不急のもの』なんかじゃなくて、
『音楽は必要不可欠なもの』ではないのかしら?
今日も、よい一日になりますように。
(ende.)
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心が辛くなると、オルゴールのように、ふいに鳴り出す音楽が
私には、あります。
J.S. Bach's Choral Prelude BWV 639
J.S.バッハ:「我、汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」 BWV639