
(2010年(平成22年)10月27日:毎日新聞(朝刊))
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世界の国々が外貨準備として大量に日本円を
もってくれている。
かといって、何かいいことがあるわけではない。
国際通貨基金(IMF)が表彰してくれるわけでもないし。
しかし、それは日本国の信用度を示している。
何となく誇らしい。
準備通貨として円は長く3位が指定席だった。
首位米ドル、2位ドイツ・マルク。その次だ。
ユーロができてからはドル、ユーロ、円の順番。
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ところが、2005年に英ポンドに3位の座を奪われ4位に
転落するという事件が起きた。
「あのイギリスに…」と関係者は大ショック。
そんなことを言っても、こっちは「失われた10年」
なのに対し、英国は金融大国として隆盛を極めていた。
勢いが違う。仕方ない。
ところが、サブプライム危機で英国の繁栄があやしくなった。
抜き返すチャンス?
現状はIMFによれば、世界の外貨準備の62.1%がドル、
ユーロが26.4% 、英ポンドが4.2% 。円は3.3%だ。
(1995年には円は6.7%でポンドは2.1%に過ぎなかった。
円の没落ぶりの情けなさ!)
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差は縮まってきている。最近もスイスの中央銀行が円を
1兆円も外貨準備に加えたことが分かって、
その筋ではちょっとした話題だ。
が、私は、抜けそうで抜けないのではないか、と思う。
財政規律に対する政府の覚悟に大差があるからだ。
英国政府は未曽有の緊縮財政を打ち出し、国防も警察も
女王の交際費も削りまくる。
英国は1970年代、政府の肥大化で「イギリス病」に陥り、
IMFに援助してもらう国になりさがった。あれがトラウマ。
それを避けるためなら、予算カットで不況になったとしても
甘受する。英国魂健在だ。
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格付け機関のムーディーズは英国を称賛して格付けは
最高のAAAのままにすると発表した。
他方、日本はいま上から3番目のAa2だが格下げを検討する。
英国がこの時期、緊縮財政に踏み切るのが
正しい政策かどうか分からない。
しかし、政府の断固たる意思を感じて頼もしい。
結論。という次第だから、当分、円はポンドを抜けないだろう。
(ende.)