
(2010年(平成22年)10月10日(月):毎日新聞(朝刊))
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江戸時代の俳人宝井其角(たからいきかく)が
「あかとんぼ/はねをとったら/とうがらし」
という句を詠んだ。
これに師匠の松尾芭蕉が手を入れ
「とうがらし/はねをつけたら/あかとんぼ」
と返したという。
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俳聖とあがめられる人物と、蕉門十哲の一人と言われた
高弟のやりとりとはとても思えない。
とぼけた言葉を交わして、ふざけあっていただけだろう
「国立民族学博物館名誉教授、山本紀夫先生編著
「トウガラシ讃歌」(八坂書房)にある。
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そのトウガラシは、15世紀末、コロンプスが西インド諸島から
持ち帰り世界に広がった。わが国には約半世紀後、
ポルトガル人が持ち込んだらしい。
約100年後に芭蕉が生まれたころには庶民にも
親しい香辛料だったのだろう。
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なぜ人間はかくもトウガラシにひかれるのか。
動物にとって辛さは「危険なもの」を示すサインだが、
人間はそこにある種のスリルを感じるという学者もいる。
怖いもの食べたさ。やっかいな生きものだ。
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京都府向日市に「京都激辛商店街」という町おこしグループがある。
飲食店など約400店が激辛大福、地獄焼きそば、
ハバネロアイスクリームなどと恐ろしげなメニューを競っている。
今年はハバネロの2倍の辛さというブート・ジョロキアなる品種を
地元で栽培、このほどメニューに加わった。
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「辛いもの好きには、自分を打ち負かす強敵に出会いたいという
欲求がある。うわさを聞いて海外からやってくる挑戦者もいる」
と仕掛け人は話す。商店街誕生から1年余り。
売り上げが3~4割は増えたというから狙いは当たったようだ。
地方が元気になるなら、こんな危険な食欲の秋もあってよい。
(ende.)
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Special Thanks:Ms.Violinist.
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