Ms.Violinistのひとりごと-万聖節に黄金の雨がふる 内田善美
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内田善美先生の描くハロウィーン。

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ここは、晩秋のゲイルズバーグ。
アメリカのイリノイ州にある現実のゲイルズバーグと同じ名の
作者「内田善美」先生の描く架空の街である。

ヨーロッパ様式の住宅群に、街路樹が整然と立ち並ぶ
古き良き時代のアメリカの面影を色濃く残した街。
樹木から落ちた枯れ葉が、あたりを黄金に色付けている。

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この街に一人の青年が宿を取った。名前は「リオン」。
リオンと出会い、なぜか彼を慕う少女「アリス」。
神出鬼没で自分を妖精だという「パック」。

かぼちゃランプ、魔女や黒猫飾りで華やぐ街で
「トリックオアトリート」と言いながら、お菓子を集める3人。
やがて日が落ちて、アリスを自宅まで送り届ける。

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そこでリオンが目にしたものは、資産家で封建的な祖父が、
リオンの父の死後に追い出した母と、母がこの街で再婚した夫。
アリスは、自分の妹であったという事実。
遠目に幸せな家族を眺め、まだ死にたくないと涙を流すリオン。

リオンは、跡継ぎだった父と、使用人の母との間に生まれた。
幼い頃から母の愛情に飢え、さらには肺結核で余命幾ばくもない。
彼がゲイルズバーグを訪れたのは、母がいるとの消息を掴み、
死ぬ前にひと目、母の姿を見たかったからかもしれない。

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激しく動揺する彼に畳み掛けるように、パックが打ち明ける。
アリスを今夜、ハロウィーンが明ける頃にさらっていくと。
妖精の魔の姿を現すパック。

リオンは恐怖するが、アリスとその一家を守るために、
パックに挑み地面に組み伏せた。
アリスの代わりに自分をさらえと懇願する。

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ハロウィーンが明ける頃、街を冷たい雨が濡らしていた。
静かな街に、リオンを呼ぶアリスの姿。
素足もパジャマも跳ね上げた泥で汚れている。

消え失せようとするリオンを必死に追い求めてきたのだ。
「愛する妹のアリス。」抱きしめるリオン。
無情にも一陣の風を起こして2人を引き離したパック。
『さあ、黄泉の国への門が閉まる前に早く』と。

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風に舞い上がられた枯れ葉が落ち着いた時、
そこには、冷たい雨に打たれるアリスが独り残されていた……。

万聖節に黄金の雨がふる。[完]
(ende.)

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