
(2010年(平成22年)10月22日(金):毎日新聞(朝刊))
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左手で紡ぐ。自然と共生する先住民族の精神世界を敬う
豊かで繊細な旋律。演奏生活50周年を記念し、
10月22日の札幌を皮切りに福岡(26日)、東京(11月10日)、
大阪(2011年2月6日)を巡る公演で新曲「アイヌ断章」を
初披露する。「銀の滴降る降るまわりに」の詞で知られる
「アイヌ神謡集」などをモチーフにしている。
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父はチェリスト、母はピアニストの音楽一家。
母が北海道室蘭市で育ったこともあり、少年時代から
「北の大地に異なる民族がいるのか」と興味を持った。
「私が暮らすフィンランドにも少数民族がいる。
国の同化政策による受難の歴史を生き抜いた先住民の心に
思いをはせながら演奏したい」。
東京芸術大を卒業した1960年にデビュー。
北欧の大自然にあこがれ4年後、拠点をフィンランドに移した。
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2002年。年始めのリサイタル直後、脳出血で倒れ、右半身不随に。
「ピアニストは手職人。片手だろうが両手だろうが問題ではない」。
2年半後、左手のピアニストとして本格的に復帰した。
演奏会で弾く曲作りは作曲家の間宮芳生さんや林光さんらに依頼。
「アイヌ断章」は芸大時代からの友人、末吉保雄さんが
「50周年のお祝いに」と寄せたピアノやフルートなどの四重奏曲。
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この間、自分以外に事故や病気で
手に障害を負ったピアニストがいると知った。
「そうした人々のためにも『左手のビアノ』を新しいジャンルと
して確立したい」。
新たな音楽の世界を追求する。
(ende.)