
(2010年(平成22年)9月23日(土):毎日新聞(朝刊))
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「ケアラー」という言葉をご存じだろうか。
「介護」「看病」「療育」「世話」
「こころや身体に不調のある人への気づかい」など、
ケアを必要とする家族や近親者・友人・知人を
無償でケアする人であり、ケアワーカーと呼ばれる
有償で働く介護者は含まない。さる6月7日、
支援を訴える全国組織「ケアラー連盟」が発足した。
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「ケアラー」は高齢者をケアする人だけにとどまらない。
年齢の幅は子どもから超高齢者まで幅広く、その実態も
老・老介護あり、遠距離、兄弟姉妹と多様であり、
ケアを必要とする人の障害や病気もさまざまである。
連盟はケアラーのみならずケアラーを気づかう人、
ケアラーの抱える問題を社会的に解決する志を持つ人々が
集いともに生きる社会をつくることを目指している。

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ケアラーは追いつめられており、事態は急を要している。
彼らの多くは「家族だからケアをするのは当たり前」とされ、
身体的、精神的、経済的な負担を一身に背負っている。
続けたい学業や仕事、友人との付き合いなど
社会参加のニーズは誰にも受けとめてもらえない。
倒れても、切羽詰まっても、SOSを出せずに孤立を深めている。
介護保険や自立支援のサービスを使っていても、
自分の時間が持てず、気の休まる暇はない。
深夜に睡眠を中断され、仕事を辞め、お金の心配をし、
将来が描けず、心身に不調をきたす。
介護自殺や介護疲れ殺人、虐待に追い込まれる例も、
後を絶たない。
ケアラーが自分の現在の生活や将来を犠牲にしなければ
ならないようなケアが本当に良いケアなのだろうか。
介護を必要とする人は自分のためにケアラーが人生を
犠牲にするようなことを望んでいるだろうか。
そんなはずはあるまい。

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ケアラー連盟は「介護者のニーズに関する
緊急アンケート調査(中間報告、250人)」を実施した。
それによると、多くの回答者がほしいとした支援は、
自分がケアしている人への「サービスや制度の充実」を筆頭に、
「地域や職場等、社会が介護者問題への理解を深めるようにする」、
「専門職や行政職員が介護者問題への理解を深めるようにする」
が続いた。
彼らを追いつめるもう一つの要因は、
ケアを必要とする人に対して地域に総合的・包括的な保健医療へ
福祉介護を含む生活支援サービス体系がないことがある。
例えば退院した後のリハビリテーションをどの施設で
できるのか調べたり、利用を申し込む手間は
日々のケアで手いっぱいの介護者には大きな負担だ。
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専門職や行政職員は多職種チームを結成し、
「待つサービス」から生活の最先端に「出向くサービス」に
切り替えてほしい。ケアを必要とする人の現状に
正面から向き合えば、おのずとケアラーの生活実態や
必要なサービスも見えてくるはずである。
厚生労働省の国民生活基礎調査(2007年)によると、
手助けや見守りを必要とする人のいる世帯は、
10世帯に1世帯である。
6年前には約6%であったから伸び率は著しい。
さらなる高齢化によリケアラーは今後も増え続ける。
介護者がどれほどいるか、どんな生活をしているか。
国の責任で定期的に調査すべきだ。
家族や友人をケアする立場になっても、生活者として普通に
暮らせる社会のため、介護者支援法(仮称)の制定を実現したい。
(ende.)
