Ms.Violinistのひとりごと-思考の整理学 外山滋比古
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ロングセーラーとして読み続けられている「思考の整理学」。
外山滋比古先生が、現代の若者へ伝えたいメッセージとは。
言語学や教育学に優れたご研究をされている先生に
自身の人生と現代の若者の行動心理について聞いてみた。

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「「思考の整理学」(ちくま文庫)は1986年の出版以来、
ロングセラーとして今も読み続けられています。」

考えるとか、知的な問題に、時代を超えてかなりの人が
関心を持っているのではないでしょうか。

「考える」といいますが、実は大学までの教育の過程で
考えることをほとんど経験していない。
優秀な成績で大学を出た人でも、思考力に乏しいことが
よくあります。

それまで知識習得に没頭した人には「思考の整理学」は
刺激的だと思います。「知識だけではダメだ」と
言われたことがなかったんですから。
勉強して知識の豊かな人は、
かえって独創性やオリジナルな考えは出にくいんだと、
はっきりと書きました。

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「大学でもそうですか。」

今の大学で、ことに文科系では思考力はほとんど問題にしない。
勉強とは、すなわち知識を得ることです。
でも知識だけでは、社会を切り開く力にはなりません。

そもそも知識には賞味期限があります。
20年くらいはもちますが、30年たつと効用を失い始めます。
そんな知識を過大に取り入れるのは、問題です。
知的メタボリック症候群です。
知識とは、他人が考えたものの痕跡です。
われわれは少なくとも、
「知識だけではだめだ」と気付かねばならない。
年配の人より、若い人のほうが
「知識よりも思考が大事なんじゃないか」と感じ始めている
と思います。

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「ご自身の学生時代はいかがでしたか。」

戦時中に学生時代で、英文学という敵国の言語の勉強を
していました。好きで面白くて学んでいたのですが、
「敵国の文学を勉強するなんて」と周囲からずいぶんしかられました。
こういう逆境の中で育ってよかったと今は思っています。
まだ誰もやっていないことや、道を切り開いていくためには
「自分はこう考えるんだ」という部分を確立しなければなりません。
そのためには、常識やそれまでに得た知識を疑ってかかることが
必要でした。

Ms.Violinistのひとりごと-ものの見方 外山滋比古
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「知識をどのように思考につなげていますか。」
10年ほど前から、不動産業やブティック、塾の経営者など
畑違いの仲間と、月1回ほど食事しながらあれこれ話しています。
私の話に「へえ、初めて聞いた」と感心されることが多くて、
そうなるといい気持ちになります。
たとえ少人数でも自分をほめてくれる友人がいるのはいいことです。
この集まりではそれぞれが人生経験をもとに、多彩な話を披露し、
それぞれがいろいろなことを考えます。
だから、新しいテーマの種が浮かぶこともあります。
逆に、自分より能力のある人に会うと圧倒されることがあります。
これはあまり愉快ではないから、年をとったらあまり優れた人とは
会わないほうがいい。(笑)

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「特に興味をお持ちなのはどんなことですか。」

最近、留学したがらない若い人が多いそうですね。
おそらく、菅原道真以来の現象でしょう。
遣唐使を廃止(894年)した道真は、留学の価値を疑った。
命がけで渡航し何年も苦しい勉強をして、どれだけ役に立ったかと。
日本では明治以降、留学自体に疑いを持ちませんでした。
私の場合は大学時代が戦争中でしたから、初めから留学を
考えませんでした。
「必要な本は取り寄せればいいし、イギリス人でも中世には
留学できないのだから、留学する必要はない」と居直って
日本で勉強したんです。 

しかし今の若者は、比較的簡単に留学できるのにしない。
新聞の論説などでは、若者が内向的になっている
と分析していますが、留学したがらない人がいるのは
むしろ自然だと思います。
留学に懐疑的な傾向を、若者の消極性や内向性と結びつけるのは
ちょっとどうかと思います。

Ms.Violinistのひとりごと-日本語の作法 外山滋比古
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「若者の内向性はこのところよく指摘されます。」

確かに今の若い人が「飲み会などの2次会に行かない」
という話も聞きます。
孤立ではないが、自分を大事にして、傷つきたくないのでしょう。
でも日本は島国で、人的交流はもともと乏しい。
同じ島国のイギリスは産業革命を成功させました。
だから必ずしも島国的、内にこもるのが悪いとはいえない。
こもらなければ個性的な文化が生まれない恐れがあるんです。
鎖国だった江戸時代は、生活面では貧しいながらもある種の豊かさを
生み出す知恵や文化がありました。
戦後の日本はアメリカ文化を多く受け入れたため、若者には
「これで日本人として本当に幸福か。
自分たちのアイデンティティー確立はあるのか」
という問いかけは存在していると思います。
留学しない方がむしろアイデンティティーは確立しやすいのでしょう。

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「新たな日本文化を確立する時代に入りつつあるのでしょうか。」

これからの日本を考えると、今までのような模倣だけでは、
どんなに頑張っても2番手、3番手。
日本文化は国際的に高く評価されるところまではいきません。
独自の文化、思想というものが必要ではないか。
そういう時代に、20~30代の若者にいつの間にか
留学しない気風が漂ってきたのは面白いですね。
誰かがリードしてキャンペーンした結果ではないでしょう。
若者たちが今の日本の衰退ぶりを敏感に感じとり、
アイデンティティー確立、まず自分の内面を固めようと
考えていると思います。自分の世界に自信を持ちたいという思いは、
非常に健全だと思います。
(ende.)

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