Ms.Violinistのひとりごと-沈黙のピアニスト 宮本まどか
(2010年(平成22年)9月21日(火):毎日新聞(朝刊))
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「高度難聴のピアニスト 宮本まどか さま(50)」

「苦」という言葉が最近、好きになった。
「苦労は覚悟していれば、気持ちが楽になるから」。
半生をつづった自伝を9月24日に出版する。

生まれつき耳が不自由で「神経性高度難聴」と診断された。
ガード下にいて、上を通る電車の音がかろうじて聞こえる程度。
幼いころは「普通じゃない子」と好奇の視線にさらされた。

ピアノとの出合いは6歳のときだった。
口の動きを読んで相手の言葉を理解し話すことはできたが
「リズムを教えれば棒読みの話し方一が改善する」
と母の山下尚子さん(73)が勧めた。

おずおずと鍵盤に唇を近づけると、音の振動が伝わってきた。
未知の世界。夢中になった。リズムは手の握り方、
音の強弱は指導者が背中をたたく強さで覚えた。
「耳が聞こえない子は無理」という声をよそに才能が花開いた。
「奇跡の人」という評判が広がり、17歳から
演奏活動で全国を回るようになった。

24歳で結婚、3年後には娘を授かったが、
そこからは順風満帆とはほど遠い生活だった。
「仕事も家事も完ぺきに」という性格からうつ病を経験。
娘は高校入学後引きこもり、夫(51)には早期がんが見付かった。
そうした苦しみも時間が解決してくれた。

演奏後、拍手が鳴りやまないことが増えた。
「心で弾くようになった」と言われるのがうれしい。
今年、英語の勉強を始めた。目標は米国に留学すること。
「これからは笑って生きていきます」。

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私は耳が聞こえる。頑張らねば。
(ende.)

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