Ms.Violinistのひとりごと-電子書籍・自炊術
(2010年(平成22年)8月22日(金):毎日新聞(夕刊))
「自炊」がにわかに注目を浴びている。といっても
自分で食事を作るのではない。
本を裁断してスキャナーでデジタル化し、電子書籍を
手作りすることだ。新たな「自炊」事情とは。

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本のとじ目を切り落として1ページずつばらばらにして
パソコンにつないだスキャナーで取り込み、
電子データで保存して読む。
「自炊」はネット上の俗語で、
「自分でデータを吸い込む」イメージに「炊」の字を
あてたからなど諸説ある。
持ち歩きしやすい米アップルの新端末「iPad」の登場が
自炊化を後押しする。

最近自炊を始めた東京都の女性会社員(30)は
「読んだ本は定期的に処分するが、
後で必要になって同じ本を4回買ったことがある。
スキャナーの精度が良く、iPadで見るには十分」と話す。

ネット調査会社マクロミル(東京都港区)が6月に
iPad購入者300人に聞いたところ、約2割が自炊経験者で、
約3割が「興味がある」。
経験者からは「電子書籍が出回っていないので」
「色あせた文庫本が読みやすくなった」という声が寄せられた。

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関連商品の売れ行きは好調だ。
かつてのスキャナーは片面ごとに取り込んでいたが、
今は両面一度にできる機器が手ごろな価格で出回る。
富士通グループのPFU(石川県かほく市)によると、
両面対応のスキャナーの6月の売上台数は前年の約2倍。
ネット通販大手のアマゾンでも、スキャナーと裁断機の
人気機種は6月の注文数が4月に比べ倍増した。
プラス(東京都港区) の裁断機は、アマゾンが扱う
文房具・オフィス用品計約3万商品の中で2位(8月6日現在)。
ヨドバシカメラ新宿西日店では7月末から、
自炊方法紹介コーナーが設けられている。

1冊110円で裁断のみを請け負う実践(長野県大町市)の
腰原智之取締役は「1日に1,000~1,500冊ペースで裁断している。
以前は実用書や専門書を持ち込む男性が多かったが、女性が増え、
一般的な文芸書が多くなった」と話す。

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一方、裁断からデータ化まで一括して請け負う業者もあり、
著作権法に触れるとの声も上がっている。
書籍購入者本人によるデジタルデータ化を「私的使用」として
認める著作権法は、本人が自ら複製することを想定しているからだ。
日本書籍出版協会は「業者が複製することは、
私的使用の範囲を超え、違法行為」と業者への警告を検討する。

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自炊した楽譜をiPadで見るのは気が進まないし、
それ以前に、本を裁断するなんて、私はイヤだ。
(ende.)

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