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聴衆の視線を一身に集め、アリアを歌うたびに
拍手を受けるオペラ歌手。
その華やかな舞台の下、約2.4mの深い"谷底"にある
オーケストラピットは、壁に阻まれて客席から
は容易には見えない。
びわ湖ホール(滋賀県・大津市)で
プッチーニの歌劇「トゥーラン・ドット」が上演された。
オケピに入ったのは京都市交響楽団。
奥行き約4.5m、幅約20mの細長い空間は過酷な現場だ。
「ほこりっぽいし、演出によっては煙や霧もたまる。
ダンサーが落ちてきたこともある」と
京響首席フルート奏者の清水信貴。
指揮者の沼尻竜典は、
「事故はあっちゃいけないけど、
100%ないとも言い切れない現場」だと語る。

オケピに入ると、狭くて暗い空間をカバーするさまざまな
工夫があった。指揮者はオーケストラと舞台上の進行を同時に
目配りしなくてはならないため、指揮台はオケピの床面よりも
約70cm高く設置。指揮者とオーケストラが接近しているため、
指揮棒が視界に入りやすいように、前方の奏者の座席台も高く
設営している。ビオラ奏者の隣にホルン奏者がいる楽器配置も
オケピならでは。
「トゥーランドット」は楽器編成が巨大。オケピに74人が入り、
ただでさえすし詰め状態なのに、ハープが2台に、木琴2台など
場所をとる楽器も多い。舞台裏には13人の別の演奏部隊もいる。
「編成が入るかどうか。それが不安でした」。
オケピの図面を書いた京響ステージマネージャーの
日高成樹は語る。
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終演後、カーテンコールの花は主役級の歌手。オーケストラは
通常オケピの中で拍手を受ける。でもこの公演は違った。
何度も続くカーテンコールの最後、再び幕が上がると
オーケストラ全員が舞台上で手を振っているという沼尻流の
演出が加えられていた。
オケピの面々が、聴衆のどよめきとプラボーを浴びる
晴れやかな瞬間だった。
(ende.)
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Special Thanks:Ms.Violinist.
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