Ms.Violinistのひとりごと-世界貿易センタービル 十字架
(2010年(平成22年)9月7日(火)毎日新聞(朝刊))
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旅客機が突入し倒壊した世界貿易センタービルの
78階から、盲導犬と非常階段を歩いて下りた全盲男性がいた。
マイケル・ヒングソンさん(60)は、その後、
「一つのチームとして協力し合おう」と米社会に訴え続けてきた。

ヒングソンさんはコンピューター会社に勤め、ニューヨークの
販売チーム10人を部下に持つセールスマネジャーだった。
23年の経験を重ね、全盲であることを
むしろセ―ルスの強みに感じていた。
盲導犬を連れた視覚障害者と接した経験のある人は少ない。
セールストークだけなら身構えるかもしれないが、
目の不自由な自分について話すことで、かえって相手の懐に
飛び込むことができた。

「アパートを借りる時でも、目が見えなくても大丈夫だと
貸手を説得しなければいけない。商品の良さを納得させる
セールスの仕事は、自分の生き方と重なっていた」と話す。

そんな生活は9・11をきっかけに一変した。
講演依頼が相次ぎ、「自分と(盲導犬)ロゼルが脱出したように、
世界中の誰もが一つのチームとして協力して働く」ことの
大切さを訴えるようになった。

翌2002年、盲導犬を育て、寄付するボランティア団体に転職し
全米の講演行脚を続けた。
「コンピューター機器のセールスを続けていた方が、
収入は2倍良かった。しかし9・11をきっかけに、
人生にはお金より重要なことがあることを学んだ。
家族を大切にすることや、誰もがお互いに寛容になり、
理解し合う必要があることに気付いた」と振り返る。

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ヒングソンさんを救ったロゼルは、その後血液障害と診断された。
科学的に証明はできないが、倒壊ビルのほこりや煙を通じ、
毒性物質を吸い込んだことが原因ではないか」と
ヒングソンさんは考えている。テロ当時は2歳半だったが、
今では11歳を過ぎ、人間の年齢に換算すれば80歳を超える。
2007年に盲導犬の任務を引退し、新たな盲導犬と同居し
余生を過ごす。
(ende.)

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