ヴァイオリンを奏でられる皆様は、楽器の健康状態について、
ちゃんと関心を持たれていらっしゃいますか。

楽器の健康管理(メンテナンス)は、毎日の基礎練習と共に
皆様が日々、ご自分の楽器とお過ごしになる中で、
いつも気遣いをしてあげたいものですね。
早くに楽器の病気(異変)に気が付けば、それだけ
病気からの回復も早くなりますから。

上手に調整された楽器からは良い音が出ますし、
長時間に渡って練習しても、疲れにくいのです。

ヴァイオリンを奏でる皆様向けの
"奏者がすべき保守"についてのレクチャーを
させていただきたいと思います。
それでは、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

Ms.Violinistのひとりごと-駒の位置

#
第40回「駒の位置を動かして良いか。」
時々、駒の位置を勝手に動かしている方がおられますが、
はたして、これはやってもいいことなのでしょうか。
いくつかの事柄から、考察してみたいと思います。

●駒を動かすというコトは
駒の位置は動かすことによって音色が変わります。
なので、駒を意図的に動かす人はいらっしゃるようです。
また音色的な目的だけではなく、弦長を変化させて
弾きやすくするために、勝手に駒を動かす人もおられます。
これはチェロやヴィオラ、子供用楽器においてよく見かけます。

結論を先に申しますと、駒を勝手に動かすことは、
「最初に立っている駒の位置が正しい」という前提で、
絶対にしてはいけないことです。
というのは、駒の位置はきちんと計算された上で
楽器は設計されているからなのです。

●駒の位置と弦長
「駒の位置は?」と訊かれて、
「左側f孔の、内側刻みの位置」とすぐに思いつく方は、
いつもメンテナンスに気を配っている方でしょう。
これは正解です。さらに、楽器の音響面から考えますと、
「駒の位置が基準となってf孔の位置が決まっている」のです。

つまり、駒の位置というのは楽器の設計上の最も重要な、
かつ最も基準となる位置なのです。
楽器を設計する上で重要なのは、「胴体の大きさ」ではありません。
「弦長」こそが最も重要なのです。
この弦長はネック部分と胴体部分の2つから構成され、
その比率はモダン・ヴァイオリン、ヴィオラの場合で2:3、
モダン・チェロの場合で7:10と決まっています。

駒を勝手に動かすと、この比率に狂いが出るのです。
これはハイポジションにおいて、演奏上の違和感を生じさせます。

●駒の位置と表板の隆起
正しい駒の位置は、表板の隆起の頂上です。
この様な設計をすることによって、駒にかかる巨大な力を
表板の隅々に分散することが可能になるのです。
これは表板の隆起だけに限らず、バスバーの形、シュパヌングも
駒の位置を基準に設計されます。

ここで、もしも駒を勝手にずらしてしまうと、
駒によって表板にかかる力は僅かではありますが、
一部分に多くかかってしまうのです。
楽器がすぐに傷んでしまうということはありませんが、
長年の間にはの影響が出ることは間違いありません。

●駒の脚の跡
駒の立っている部分には、自然と跡が残ります。
もしも駒の立てる位置をいい加減な位置にしていると、
その部分に跡が残ってしまうのです。
そうすると、その楽器を後に使う事になる演奏者は、
どこに駒を立てて良いものか迷ってしまうのです。

迷ってしまう場合には救いようがあるのですが、
迷わず以前の駒の脚の跡が付いている部分が
正しい位置だと思いこんでしまうことも多いのです。

Ms.Violinistのひとりごと-魂柱

●駒の位置と魂柱の位置
魂柱の位置は駒の位置を基準に立てられています。
従って駒を安易な気持ちで動かしてしまうということは、
魂柱を動かしているのと等しいのです。
従って、音色が変わるのは当然なのです。

もしも魂柱がきちんと調整されている場合、
駒を動かすということは、魂柱調整を無駄にしている
ということです。
最悪の場合は、駒を魂柱よりも遠くに移動させすぎて、
表板が弦の圧力に耐えきれずに凹んでしまう
というトラブルも考えられます。

このように駒の位置を勝手に変えるということは
非常に危険なことですから、絶対に行わないように
気を付けてください。
しかし、現在の駒の位置が正しくなければ
これと同じ危険性を含んでいるわけです。
職人さんに楽器の駒の位置を再確認してもらってくださいね。


皆様が素敵なViolinライフを過ごされますように。

(Ende.レクチャー:ヴァイオリニストがすべき保守
 (第40回) 「駒の位置を動かして良いか。」)
The author is "Ms.Violinist."
The verification is "Ms.Composer."

人気ブログランキングへ