「指揮棒を持った指揮者はいつ登場したか」
《聴衆に背を向け、ある種の緊迫感を背中から発する
タキシード姿も凛々しい存在。スポットライトの下、
彼(彼女)の手に持った指揮棒が振り下ろされた刹那、
大交響曲が始まる。その威圧感は君臨する皇帝のごとし。》
今日では、指揮者が誰かでコンサートの来場者数が変わると
いわれています。協奏曲で時折、楽器を弾きながら指揮もする
ヴィルトゥオーゾ・マエストロ(名手兼名指揮者)も
現れていますが、音楽を奏でる舞台の上で唯一、音を
出さない存在。巨大な管弦楽団を猛獣使いの鞭のように
自在に操るのは、一本の白い木。それを人は「指揮棒」という。
さて、「指揮棒を持った専業指揮者」はいつ誕生したのでしょうか。
次の中から選んでください。
(1)17世紀初頭から18世紀中頃(バロック音楽)
(2)18世紀後半(古典派)
(3)19世紀前半(前期ロマン派)
(4)19世紀後半~20世紀初頭(後期ロマン派)

それは、(4)19世紀後半~20世紀初頭(後期ロマン派)。でした。
ベルリンフィルの初代指揮者であるハンス・フォン・ビューローが
指揮棒を持った専業指揮者の第1号と言われています。
ワーグナーの高弟であり、忠実なワーグナー音楽の
布教者でもあった方です。
専属指揮者と指揮棒の登場は、まさに時代の要請とも言える
ものでした。時代は「後期ロマン派」。
楽器の改良がほぼ終わり、弦楽器で肩に乗せて演奏する
ヴァイオリンやヴィオラの顎当て、金管楽器のヴァルブの
改良が現代の楽器とほぼ同様の機能を持つようになり、
作曲家の思い描く大規模な楽劇や交響詩が自在に演奏される
ようになりました。特に分水嶺はワーグナーの存在です。
1850年以降に完成させた数々の楽劇は、和声法や管弦楽法が
近代的なものに置き換わり、今日のフルサイズの管弦楽団の
編成が生まれます。
巨大で様々なセクションを有する近代管弦楽団は、君臨し
統治する今日の指揮者と指揮棒を必然としたのです。
(1)17世紀初頭から18世紀中頃(バロック音楽)は、
バッハがヴィオラを演奏しつつ指揮しているように
作曲家は演奏家、あるいは弾き振りし、チェンバロで
手薄な和声を補う縁の下の力持ち的役割であったのです。
また、フランスのバロック時代は、金属製の杖(指揮杖)を
床に打ちつけ、その音でテンポをとって指揮していました。
フランス・バロック音楽の大家のひとり、リュリは
ルイ14世の病気快癒を祝うための「テ・デウム」の演奏中に、
誤って指揮杖で自分の足を強打し、その傷が悪化し、
破傷風で亡くなったという話が伝わっています。
音楽の発展の為の尊い犠牲に慎んで哀悼の意を表します。
★
しかし、想像してみてください。
演奏会の始まりを告げる序曲からして、
フランス風の付点付きの威風堂々としたリズムに混じって、
床を強打する「ドン・ドン……」という音が
常に耳に飛び込んでくるのです。
おそらく上演は特権階級専用の劇場で、王侯貴族だけを
聴衆にしていたはずですが、彼ら王侯貴族は、
その音が気になって仕方がなかったのではないでしょうか。

(Ende.楽譜と音楽と
…スコアにみる不思議な話(最終夜) July 25, 2010)
The author is "Ms.Violinist."
The verification is "Ms.Composer."
《聴衆に背を向け、ある種の緊迫感を背中から発する
タキシード姿も凛々しい存在。スポットライトの下、
彼(彼女)の手に持った指揮棒が振り下ろされた刹那、
大交響曲が始まる。その威圧感は君臨する皇帝のごとし。》
今日では、指揮者が誰かでコンサートの来場者数が変わると
いわれています。協奏曲で時折、楽器を弾きながら指揮もする
ヴィルトゥオーゾ・マエストロ(名手兼名指揮者)も
現れていますが、音楽を奏でる舞台の上で唯一、音を
出さない存在。巨大な管弦楽団を猛獣使いの鞭のように
自在に操るのは、一本の白い木。それを人は「指揮棒」という。
さて、「指揮棒を持った専業指揮者」はいつ誕生したのでしょうか。
次の中から選んでください。
(1)17世紀初頭から18世紀中頃(バロック音楽)
(2)18世紀後半(古典派)
(3)19世紀前半(前期ロマン派)
(4)19世紀後半~20世紀初頭(後期ロマン派)

それは、(4)19世紀後半~20世紀初頭(後期ロマン派)。でした。
ベルリンフィルの初代指揮者であるハンス・フォン・ビューローが
指揮棒を持った専業指揮者の第1号と言われています。
ワーグナーの高弟であり、忠実なワーグナー音楽の
布教者でもあった方です。
専属指揮者と指揮棒の登場は、まさに時代の要請とも言える
ものでした。時代は「後期ロマン派」。
楽器の改良がほぼ終わり、弦楽器で肩に乗せて演奏する
ヴァイオリンやヴィオラの顎当て、金管楽器のヴァルブの
改良が現代の楽器とほぼ同様の機能を持つようになり、
作曲家の思い描く大規模な楽劇や交響詩が自在に演奏される
ようになりました。特に分水嶺はワーグナーの存在です。
1850年以降に完成させた数々の楽劇は、和声法や管弦楽法が
近代的なものに置き換わり、今日のフルサイズの管弦楽団の
編成が生まれます。
巨大で様々なセクションを有する近代管弦楽団は、君臨し
統治する今日の指揮者と指揮棒を必然としたのです。
(1)17世紀初頭から18世紀中頃(バロック音楽)は、
バッハがヴィオラを演奏しつつ指揮しているように
作曲家は演奏家、あるいは弾き振りし、チェンバロで
手薄な和声を補う縁の下の力持ち的役割であったのです。
また、フランスのバロック時代は、金属製の杖(指揮杖)を
床に打ちつけ、その音でテンポをとって指揮していました。
フランス・バロック音楽の大家のひとり、リュリは
ルイ14世の病気快癒を祝うための「テ・デウム」の演奏中に、
誤って指揮杖で自分の足を強打し、その傷が悪化し、
破傷風で亡くなったという話が伝わっています。
音楽の発展の為の尊い犠牲に慎んで哀悼の意を表します。
★
しかし、想像してみてください。
演奏会の始まりを告げる序曲からして、
フランス風の付点付きの威風堂々としたリズムに混じって、
床を強打する「ドン・ドン……」という音が
常に耳に飛び込んでくるのです。
おそらく上演は特権階級専用の劇場で、王侯貴族だけを
聴衆にしていたはずですが、彼ら王侯貴族は、
その音が気になって仕方がなかったのではないでしょうか。

(Ende.楽譜と音楽と
…スコアにみる不思議な話(最終夜) July 25, 2010)
The author is "Ms.Violinist."
The verification is "Ms.Composer."