「演奏者泣かせのベートーヴェン(その2)」

ベートーヴェンは交響曲で様々な試みを行って
みせていますが、そのベートーヴェンのおもいつきに
後世の演奏家は悩まされているのです。

ここでは、ティンパニ奏者の管弦楽での
打楽器の宿命的とも言える辛い仕事への
憂鬱な声に耳を傾けてみたいと思います。
「ティンパニ奏者を悩ませる曲」はどれか。
次の中から選んでください。

(1)交響曲第3番変ホ長調作品55『英雄』
(2)交響曲第5番ハ短調作品67『運命』
(3)交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』
(4)交響曲第7番イ長調 作品92

$Ms.Violinistのひとりごと-ベートーヴェン 田園交響曲 クライバー

















それは、(3)交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』でした。

そもそも、ティンパニが使われているという印象が薄い
と思いませんか。
第1楽章の冒頭、チェロの持続音に「♪」一個分遅れて
ヴァイオリンが、あの親しみやすいメロディーを奏で、
弦楽器同士で掛け合った後、管楽器に引き継がれる。
トゥッティでフォルテになっても、
響きの輪郭を強調する役割を担う
ティンパニの音は聞こえてきません。

ご存じのことと思いますが、この第6番の交響曲は
5つの楽章で構成されていて、それぞれには
ベートーヴェン自身のによる短い表題がついています。
第3楽章と終楽章の間に短い第4楽章が挟まった形で、
第3楽章から終楽章までは続けて演奏されます。全曲で約45分。
スコアの最初のページ、第1楽章にはティンパニはちゃんと
記されています。ですが、次のページではティンパニの
楽譜が消えてしまっています。
同じ事は、第2楽章、第3楽章と続きます。
その間、ティンパニ奏者は何をしているのでしょうか。
ひたすら休みの数を正確に数え続けているのです。
前方にいるクラリネットやホルンが忙しげに
音を出している中、孤独感に耐えつつも健気に、
第4楽章「雷雨、嵐」での熱い連打に想いをはせつつ、
指定された休符の小節を数えているのです。
そして待ちに待った第4楽章。
この楽章そのものが第3楽章と第5楽章に挟まれた
小さな経過句的な部分であるがため、すぐに終わり。
第5楽章では、またしてもティンパニの出番はないです。
出番がないからといって、
さっさと帰ってしまう訳にもいかず、
立ったまま、妙な手持ちぶたさを抱きつつも、(←手持ちブタではない)
またしても休符の小節数を数えているのです。
それも第5楽章の最後の音が引き延ばされつつ、
消えるまでずっと。

「これがこの交響曲でのティンパニの仕事の全てです。
 ティンパニ奏者さん、お疲れ様でした。」m(__)m
$Ms.Violinistのひとりごと-田園交響曲 終演












(Ende.楽譜と音楽と
 …スコアにみる不思議な話(第4夜) July 19, 2010)
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