
手作りの高級ギターで業界を引っ張る
「ヤイリギター」(矢入一男社長)で、
製作とアーティスト担当を務める「松尾 浩」さん。
同社が発売したオリジナルギター
「一五一会(いちごいちえ)」の開発を担当し、
爆発的な人気を生み出した。
会社を支え続けるベテラン職人に、
ヤイリギターの魅力や将来を聞いた。
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「ご出身は熊本県。ヤイリに入社した経緯は。」
昔から音楽が好きで、大学時代に地元の有名
ミュージシャンが愛用していたヤイリギターにあこがれ、
自分でも買った。そのうち構造や作り手に興味が出て、
バイクで岐阜へ何度か通ううちに、社長や職人たちの
温かさに触れて、自分も働きたくなった。
ただ当時は新人を入れずベテランを育てる社風だったので、
入社を認められるまで7回ほど通った。
それまでの職人は、木工の勉強をして、
結果としてギター作りに落ち着いた人がほとんど。
つまり音楽好きで、ギターを弾いたり、
音を聞き分ける人材が不足していた。
だから僕がギターを弾けたことをきっかけに、社長は
「音楽を知る人間が必要」と若手育成に力を入れ出した。
(↓ヤイリギター社長:矢入一男氏)

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「ヤイリギターの魅力を。」
仕上がりが非常にきれいで、深みのある音が出る。
一本一本が手作りだからすべてに個性があって、
仕上がりの存在感は格別。
また親から子、孫へと受け継いでいける高品質のギター。
同時に、アーティストからは常にシビアな音へのこだわりを
求められる。少しずつ信頼を積み重ねて今の地位を得たし、
今後も業界を先導する役目でありたい。
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「輸入品に国産品が押されていると聞くが。」
確かに中国製のギターは驚くほど安くて、
打撃を受けた国内の中小メーカーはたくさんある。
でもうちとは質が違いすぎるので脅威ではない。
ただ怖いのは、初心者が初めてギターを買って、
粗悪品がゆえに「ギターは弾きにくい」と悪い印象を
持ってしまうこと。ヤイリのギターを弾けば、
弾きやすさや音の良さに気付くはず。
「ヤイリを知ることでギターを知る」。
そう言われたい。
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「「一五一会(いちごいちえ)」について。」
沖縄の三線に一本加えた四弦のギターで、
沖縄出身のフォークバンド「BEGIN」と共同開発した
日本発のオリジナル楽器。
指一本でコードが押さえられるため誰でも気軽に楽しめる。
廉価版の「音来(にらい)」とともに人気。
開発当初からかかわって、今でも品質の最終チェックは
大切な仕事。ともに半年から一年の予約待ちだが、
なぜこんなに売れているのか、われわれにも不思議。
ただの楽器ではなく、新しい文化として注目されているのか。
(↓ヤイリギター「一五一会」)

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「若手育成について。」
今、社内の職人のバランスは最高。
ベテラン世代は積極的に音楽好きな若手に音質の良し悪しを
尋ね、若手もその技術力を盗もうと必死。
歯車がかみ合って良い品が出来ている。
今後はベテランはもちろん、若手職人に独立した工房を開放し、
流れ作業で終わらない創造力と技術力を身につけてほしい。
10年ほど前から、愛知県内で2年に一回開かれる
手作リギターのイベントに参加させてきた。
全国からクラフトマンがギターを出品する展示会で、
若手の力を見る良い機会。うちからは毎回15本ほど出している。

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「ご自身の将来は。」
入社当初からアーティスト担当として
あちこち飛び回る日々だった。
製作部門をじっくりとやっていないから、
ギター作りではベテラン職人に到底かなわない。
僕はその職人技を世界中のアーティストに紹介する役目を
全うしたい。
(ende.)