さて、若かりし日のブラームスの逸話を一つ。
ハンガリーを代表する名ヴァイオリニストのエドアルト・レメーニと、
ドイツ国内を演奏旅行していた頃のお話です。
ハノーファー近郊の黒猫で有名な(!?)ツェレという街で、
『ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ ハ短調 作品30の2』を
演奏しようと舞台で練習を始めました。
到着してから本番まで、わずか数時間のタイトなスケジュールです。
ところが、どうしたことか、ピアノが普通よりも半音低く
調律されていたのです。
さて、このあとブラームスとヴァイオリニストのレメーニは
どうしたでしょうか?

ヒント:私なら、絶対にいえないセリフです。「怖すぎるっ!!」。

$Ms.Violinistのひとりごと-青年時代のブラームス(絵画)























それは、「ブラームスが半音上げて、ピアノを弾いた」です。

この場合は、調律が簡単にできるヴァイオリンがピアノに
合わせるのがマナーなんです。ほら、コンサートの本番でも、
ピアノからA(ラ)の音をもらって、その音にヴァイオリンが
合わせているでしょ。
ところが、レメーニは半音も弦を弛めたら、自分の楽器の
音の輝きが失われるので、イヤだと言ったのです。
「わっ、なんて暴言を吐くのっ! ワタシには、言えない……」
 
本番まで、数時間なので、調律師を呼んでも間に合わないことは、
2人には分かっていました。
ブラームスは、レメーニが意固地に拒否するので、一言、
『それでは、そのまま好きに演奏してください。
 私のほうが、半音高くお弾きますから』と。
「お、ヴァイオリン協奏曲では、あんなに頑固だったブラームスが。」

そして、本番では、ブラームスが、何食わぬ顔で、
頭の中でハ短調から嬰ハ短調への移調をしつつ、最後まで
演奏し続けたのです。
演奏会は大成功で、聴衆から2人は、盛大な拍手を受けたのでした。
ブラームスがハ短調の楽譜を見ながら、即興で半音上げて弾く
離れ技をさりげなく実行していたなんて、誰も思いもよらなかった
事でしょう。
ただひとり、レメーニを除いて。

それにしても、ブラームスが、ハ短調の半音上の嬰ハ短調で
すらすらと弾けたのは驚異的です。
3度や5度なら私にだって(たぶん?)出来ると思いますが、
半音の音程、しかもハ短調から嬰ハ短調は、♭系と♯系で
混乱しそうだし、当然、臨時記号も読み替えないといけないし、
ナチュラル(楽曲の基準の調性に戻す)のことも考えないと
イケないわけで……。
「わー、考えただけで、頭がいっぱいになっちゃうよー!!」(泣)

(下記の画像はベートーヴェンの
ヴァイオリンソナタ ハ短調 作品30の2 自筆譜のファクシミリ)
$Ms.Violinistのひとりごと-Beethoven Vn_Sonata op32-2 Faxsimiri

















(Ende.ブラームスのヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77(第2夜))
The author is "Ms.Violinist."
The verification is "Ms.Composer."

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