$Ms.Violinistのひとりごと-エスプレッソ












『エスプレッソこそ、人生である!』
情熱的に語られるイタリア人オーナーシェフのお話です。

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ボクの手元には、大好きだった祖父からの
テスタメント(遺言)がある。
「マッキネッタ(エスプレッソ・メーカー)の
 ベックッチョ(注ぎ口)には、
 コッペティエッロ(紙の帽子)を忘れないように。」

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祖父は生前、ものすごくカフェ(エスプレッソ)に
うるさい人だった。
毎日、必ず自分専用のカフェブレンドで、
自分流の方法に従って、カフェをいれる。
それが何よりの楽しみだったのだ。

横でボクは、祖父のする一部始終をじっと観察していた。
祖父のカフェセレモニーは、
ボクにとっても、なかなか楽しいことだった。
祖父はそんなボクを、彼のカフェ道の
後継者として大いに嘱望していたらしい。
ところが祖父は、ボクがカフェを飲める前に
床に伏せるようになってしまい、
彼流のカフェのいれ方をボクに伝授する前に、
この世を去ってしまったのだった。

("マッキネッタ・ナポレターノ")
$Ms.Violinistのひとりごと-マッキネッタ・ナポレターノ2

























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"コッペティエッロの作り方"を説明しよう。
まず、親指をぺろりとなめ、昨日の新聞の
端っこをつまんでピリッと破く。
破いた指はそのままで、両手をくるくると動かすと、
指の間で新聞紙がうまくまるまって、
ちょうど親指が入るほどの三角形の筒ができる。
もう一度親指をペろりとやると、筒のとがった先を
ギュッとねじって閉じる。
これでコッペティエッロの出来上がりだ。
マッキネッタを火にかけているとき、
これをベックッチョ(注ぎ口)にかぶせる。
コッペティエッロとは、
「カフェの香りを外に逃がさないための、
 マッキネッタの小さな帽子のことなのである。」

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ところが、ボクの愛用しているマッキネッタ"モカ"には、
コッペティエッロをかぶせたくても、
かぶせるベックッチョ(注ぎ口)がない。

祖父の使っていたマッキネッタは、
実は"マッキネッタ・ナポレターノ"なのだ。
ナポレターノには、立派なベックッチョがある。
だから、せっかく優しい祖父が、
可愛い孫に旨いカフェを味わせようと
テスタメント(遺言)まで残してくれたって、
ボクは困ってしまう。
祖父の気持ちを無駄にしたくはないのだ。

その代わり、コッペティエッロのモカ版には、
カッペリーノ・ディ・アッチャーイオ(鉄の帽子)がある。
モカの蓋を開けると、立っているカフェの噴出口。
あそこのための帽子である。
しかしカフェに直接触れる部分だ。
まさか新聞紙でできるはずがない。
名前の通り、鉄製の小さな丸いキャップで、
カフェの香りを逃がさないと同時に、
出てきたカフェが周りに飛び散るのも防ぐ寸法だ。

("マッキネッタ・モカ")
$Ms.Violinistのひとりごと-マッキネッタ・モカ






















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じつは、このマッキネッタは一生ものなんだ。
たまにしか使わないから一生もつのではなくて、
毎日使いながら一生使い切るものなのだ。
実際そのために、上下の接合部分のゴムのパッキング、
中の平たいフィルターや、じょうご型のフィルター、
黒い持ち手や蓋のツマミまで、交換用が市販されている。
火を強くしすぎて、持ち手の部分を焦がしてしまうこと、
あるでしょう。
本体さえしっかりしていれば、全ての部品交換が可能なのだ。

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使い込んだマッキネッタは、
なんともいえない味があるものだ。
ボクの母のマッキネッタは、それは素敵に渋いいぶし銀だ。
イタリアでいちばんポピュラーなモカは、ボクも使っている、
天を指さすちょび髭おじさんマークの
"ビアレッティ"のマッキネッタなのだが、
新品のビアレッティの色といったらそれはひどい。
"安ピカ″の語源はこれだったか、と思うような
安っぽい艶で光っている。
この"安ピカ"をいぶし銀にするには、
とにかく使い込むしか道はないのだ。
「ローマは一日にしてならず。」
カフェが好きなら愛用のマッキネッタで、
自分のローマ帝国を再建しよう!

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もしボクが祖父にならって、
孫にテスタメント(遺言)を残すなら、
コッペティエッロのことにも、
カッペリーノ・ディ・アッチャーイオにも、
触れないだろうと思う。
まだまだ使えるマッキネッタが、
蒸気でふにゃっとしてしまった
古新聞製のコッペティエッロと同じように、
ポイっと捨てられてしまう現代だ。
もっとストレートに、
「マッキネッタとは一生を共にすべし」
と書こうと思う。

きっと祖父も納得してくれる。
なにしろ、棺のなかにまで愛用のマッキネッタを
持っていった祖父なのだから。

Fine.(ende.)


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