$Ms.Violinistのひとりごと-Pizzeria Pancia Piena(ピッツァ窯)

『ピッツァの本場はナポリである!』
情熱的に語られるイタリア人オーナーシェフのお話です。

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ピッツァは、正真正銘ナポリの名物なのだ。
そして今でも、正真正銘本物のピッツァはナポリで、
それもごく限られたピッツェリーア(ピッツァ屋)でしか、
食べられないのである。
では、日本人が普段口にしているピッツァは
いったい、何だろうか?
「そんなこと、ボクは知らない。」

ただボクにいえるのは、ナポンターノ(ナポリ人)は、
ナポリ以外でピッツァを作ることはあっても、
ナポリ以外でピッツァは食べることはない、
ということだけだ。
事実、ナポリ以外でも
ピッツァヨーロ(ピッツァ職人)は、
ナポレターノであることが多い。
でも、どんな腕のいいナポリのピッツァヨーロでも、
不思議に他所では、ナポリで作っていたような
ピッツァは作れないという。

それを知っているボクらナポレターノが、
ナポリでしかピッツァを食べないのは、
まあ当然の判断なのだ。
といっているボクだが、本当のことを言うと、
ローマや東京でもピッツァを口にすることがあるし、
それはそれなりに悪くはない。
でもはっきりいって、ナポリのピッツァとは別物だ。
そういえば、前に誰かがいっているのを聞いた。
「大きくて薄くてサクサクパリパリした~
  イタリアン・ピッツァ!」

これでは絶望的である。
ピッツァは、象の耳のミイラではないのだ。
こんなの喜んで食べてる人に、
「僕の愛するナポリのピッツァの旨さなんて、
 失礼ですけど、わかってもらえないと思う。」

だって、旨いピッツァの定義が、
すでに180度違っているからです。
正真正銘ナポリの旨いピッツァの定義を
具体的にあげてみたいと思う。

$Ms.Violinistのひとりごと-Pizza D.O.C.(カッティング)
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(1)ピッツァはベンコット(よく焼けている)でなければならない。
 トマトソースが乗っているからって、
 ピッツァのドゥ(台)が、ぐにゃぐにゃなのは完全に落第だ。

(2)ピッツアは柔らかくなければならない。
 といってもフヮフヮという意味ではない。
 ナポリのピッツェリーアでは立ち食いも出来る。
 ただしちょっとしたコツがあるのだ。
 ピッツァを"本のように綴じ、目ではなく、日で読む″のだ。
 まあ早くいえば、四つ折りにして食べるられるものなのだ。
 つまり、それができるくらい柔らかくなければならないのが、
 おわかりいただけるだろう。
 ピッツァにサクサクパリパリを要求するなんて、
 根本から間違っているんだ。

(3)適当な歯応えと歯切れのよさがなければならない。
 お口でとろけるようなものは、ちょっと違う。
 とくに大切なのは歯切れのよさ。
 食べ終わった後に、「ブオーナ(おいしい)」いう言葉が
 言えない顎が硬直してしまうようなゴムまがいの代物では、
 結局、「ブオーナ」とはいえないだろう。

(4)適当な厚みがなくてはならない。
 これと(3)の2つは、とりわけ他のところでは
 実現不可能らしい。
 それではと知恵を絞った末、生地を限りなく薄くして
 カバーしようとした結果が、例の薄くてパリパリなのだ、
 とボクはにらんでいる。
 知らない人は、それにまんまとひっかかっているだけだ。
 無論、厚すぎるのも、
 ピッツェリーアのピッツァとしては、失格である。
 バールやパニフィーチョ(パン屋)のピッツァとは、
 ここで大きく境界線が引かれるのだ。

(5)ボッレンテ(熱々)でなければならない。
 イタリアの初代大統領のE.de・ニコーラは
 生粋のナポレターノだ。当然ピッツァにはうるさい。
 彼は、ピッツァ窯に一番近いテーブルにしか
 座らないことで知られていた。他の席では、
 運んでいるうちにピッツァが冷めてしまうとの理由だ。
 大統領という地位にもかかわらず、
 ボッレンテのピッツァを食べるためは順番待ちまでした、
 ピッツァ愛好家の鑑ともいうべき人物なのである。
 事実、美しい花の命は短いように、ピッツァが
 おいしく食べられる時間も短いのであります。

(6)適当な大きさでなければならない。
 これは(5)に関係がある。あんまり大き過ぎては、
 半分も食べないうちに冷めきってしまうではないか。
 ピッツァは皿にちゃんと行儀よく納まっているべきで、
 それで量的に物足りないのであれば、
 ビス(おかわり)するのが"通"なのだ。

(7)やや膨らんだ縁で囲まれていなければならない
 ナポリではピッツァの縁を、
 慎んで"コルニチョーネ(額縁)と呼ぶ。
 縁なんて一見大切ではないかのようだが、
 この縁に香ばしい焦げ目がつき、
 "コルニチョーネ″となって初めて、
 ただの食べ物=ピッツァがひとつの"絵画"となり、
 芸術作品にまでなり得る。ふっくりと膨れ、黄金色の
 グラデーションを見せる"コルニチョーネ″は、
 視覚的になかの具の織りなす色模様を
 しっかりと引き締めるのみならず、
 機能的にはそれらの具の流出を防ぐ。
 さらに味のうえでも、濃厚な具との絶妙な
 コントラスト醸し出しているのだ。

(8)食欲を誘う素晴らしい香りがなければならない。
 粉、水、イースト、オリーブオイル、
 モッツァレッラ等々、すべてが渾然一体となって、
 ピッツァ独特の素晴らしい香りを作り出す。

$Ms.Violinistのひとりごと-Pizza D.O.C()
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ちょっとイタリアの物産事情に詳しい人なら、
材料のなかに、ナポリ以外ではナポリレベルが
入手不可能なものが多々含まれているのにお気づきだろう。
他所のピッツァとは差が出ても、しょうがないことだ。

以上がボクが考える、本物のピッツァの条件なんだ。

けれども、これらが実際ピッツァの味に
どれくらい関わってくるのか、きっと日本人には、
よく分かってもらえないだろうなあ、と覚悟はしている。
だいいち、話を聞いたくらいで分かることではないのだ。
何年も何年もナポリで旨いピッツァを食べて、
ある日どこか他の土地に行って、ピッツァを食べて
その落差に唖然とした人にしか分からないことなのである。

Fine.(ende.)


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