$Ms.Violinistのひとりごと-デュッセルドルフの街並み1












ご近所に住むMiss.マープルは
みんなが知っている老婦人。
とっても、口うるさくて気難しい方。
誰もが、彼女にお説教されているの。

朝のお出かけ時間に限って、
通りをお掃除中のMiss.マープル。
私も散々言われていたの。たとえば…
『おはようのご挨拶が出来てない!』って。

ある冬の日に彼女が倒れられた。
お見舞いに通された彼女のお部屋。
きちんと整理されたなかに、一輪の野ばら。
凛々しく咲いたMiss.マープルのお花。

雪雨でも通りをお掃除していたのは彼女。
みんなをお説教してたのも、相手のため。
Miss.マープルが私に打ち明けたコトバ。
私は彼女に出会えたことを光栄に思う。


*
今は分からないですが、私がいた頃には
ドイツでは、どこの街にもご近所姑(しゅうとめ)という
ご町内の美化や子どもや大人のマナーに
とても厳しく注意してくださる方がおられました。
旧市街地などの景観保全地区では、通りに面した
窓やベランダ、通りの美観は、そこの住人たちが
気をつけて綺麗に保つよう、窓やベランダには
お洗濯モノを干さないようにして、代わりにお花を
ふんだんに飾ったり、通りの掃除を自主的に
毎日こまめに、それも徹底的に朝昼にお掃除をして
綺麗な風景を維持し守っているのです。

*
けれども、そこは人間のやること。
ベランダのお花が枯れていたり、お家の前の
通りに観光客の落としたゴミがあると、
ご近所姑から住人は厳しくお説教されるのです。
彼女の言っていることは筋が通っているし、
伝統的にお年寄りは敬われる習慣があるので、
住人は彼女にまったく頭があがらないのです。
しかも、美観という点では、見事に飾られた
彼女の住居に勝るお家はどこもないので、
まさに反論の余地なし。

*
私の住んでた地区にも、Miss.マープルはおりました。
朝早くに学校に出かける私たちは、通りの掃除を
する彼女の前を、無言で通り過ぎることは許されません。
立ち止まり、きちんとご挨拶をしないと、
お説教をされてしまうからです。
とにかく、ご町内で彼女にかなう相手は一人もいない。
そんなコワイ存在でした。日本にもいたそうですね。
ずっと昔に。

*
でも、ある朝、彼女の姿が見えなかった日のこと。
学校から帰った私は、彼女が肺炎で病の床にいることを
知らされました。たしかにコワイ存在だったのですが、
どうして気になって、お見舞いに出かけました。
母からお花とお菓子を受け取って。

*
彼女のお部屋には、ミュンヘンから駆けつけたという
二人の年輩の息子さんがすでに来ておられて、
私を彼女のベッドに案内してくださいました。
「お見舞いに来てくれたのね。優しいわね、あなた」
そういうMs.マープルの顔は、眉間に皺を寄せた
いつものお顔ではなく、とても気品のある笑顔でした。

*
お身体に障るとイケないと思い、30分ほどで退席。
息子さんたちの話では、高齢で心配だから、
引き取って同居したいけれど、既に故人となられた
旦那様との想い出の詰まったこの街が大好きで、
頑なに同居の誘いを断っていたそうです。
風雨の中でも、一日も欠かさずに通りの掃除をし、
この街を想うばかりに、家々のベランダにまで
注視されていたのは、先人の歴史と伝統、そして
亡くなった旦那様のコトを、とても愛しておられた
からこそだった、と。
幼い私は、はらりと悟ったことを覚えています。

*
その時、大切なコトバを病床にいた
miss.マープルから頂きました。
『私があなたを叱ったのは、あなたのためなのよ。』

*
そう!
あなたが誰かに注意をいただいた時は、
その方が、あなたのコトを、とても気にして
おられるからだと、分かってあげてください。
そして、注意してくださる方のことを大事に。
その方は、きっとあなたが、これからを生きるための
"道しるべ"となる大切な方かもしれないのですから。


今日も、あなたに良い一日が訪れますように。
(ende.)


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