85.2.tangerine; satsumaとも呼ばれている


私がロンドン大学アジア言語文化学部の助教授で東京に滞在していた英国人面倒を見ていた頃、2人で街を歩いていた時、八百屋か果物屋でミカンが山積みにされていたのを見て、私は彼に英国ではミカンを売っているか、売っているなら英語で何と言うか訊いてみた。

すると、satsumaとかtangerineと呼んでいる、ということであった。日本が黒船来航によってだんだん開国して幕末を迎えたあたりの歴史的展開に非常に興味を持っていた私は、satsuma→「薩摩藩」→島津公とイギリスとの交流という連想が走って、すぐ合点がいったのである。

tangerineは、英米人が使っているのをその後何回も聞いている。

[付]京都府亀岡で英語塾をしておられ、NHKの『わくわく授業』にも登場した、カリスマ英語教師の竹岡広信氏の公開講演が、東京の予備校の早稲田アカデミーであるというので聴きに行った。これは受験生だけでなく、高1、2年生、また父兄も対象としたもので、受験英語的でなく英語そのものへの興味を持たせるには日本語と生きた英語を比較対照しながら学習を進めるのがよいといった内容で、私の早大/慶応大などでの雑学的栄ご厚誼と似たところがあり興味深かった。

竹岡氏のこの日の講演の中で、「ミカン」のことを英語でどう表わすか、ということがやはり取り上げられ、私が上で述べたように「satsumaと言うのです」と言われたのはよいのであるが、その直後に私が挙手をして、「tangerineとも言っていますね」と言ったところ、氏は言下に次のように否定されたのであった。

「いえ、違います。そのような単語はありません」

私はそこで、竹岡先生と言い争っても仕方がないので、それ以上は何も言わずに引き下がったのであった。ちょっとした、私には忘れることの出来ないエピソードであった。