80.3.「暑い」の意味のwarmとhot


前項で述べたように、少なくともアメリカ英語では「暑い」はことをwarmを使って表していることがある。一方、hotも「暑い」意味であるとされている。しかし、warmとhotが全く同じ意味であることはあり得ないという私の言語学的仮説からして、この二語は使い分けられているはずである。もし全く同義なら、どちらかの語は不要ということになり、英語から消え去ってしまうはずだからである。

そこで知人の米国人にこのことを訊いてみると、次のような説明を得たのである。

warmの意味範囲は「温かい」から「暑い」までカバーしているのに対し、hotは、例えば鉄板やガスやコンロにかけてある鍋が熱くなって、うっかり触れたら、思わず指を引っ込めた時のような熱さのいことである、というのである。また、真夏の昼下がりが午後、太陽で浜の砂が焼けつくようになっていて、そこへ裸足(はだし)でうっかり歩いて、「熱い」と叫んでしまう時のあの暑さがhotである、というのである。

そういえば、Tennessee Williamsという米国の劇作家の作品の一つに、A Cat on the Hot Roof(訳題:『焼けたトタン屋根の上の猫』)というのがあった。この、陽が当たって熱くなったトタン屋根は、まさにhotである。夏の暑い日の暑さは、いくら暑くてもこういった熱さではない(少なくとも米国では?)。warmの範囲の度が高い、というあたりであろうか。