53.3.動詞 browse; Browsing is welcome



昭和27年(1952年)頃、東京高等師範学校文科英語化での英詩の時間であった。英国の田園風景を描写した詩の購読の講義であったと思う。browse という動詞があり、羊、鹿、牛などが牧草地(meadow)で、草をあちこち、こちらでのんびりと食べている状況を表す語である、と担当教授(左右田実先生)がうっとりとした表情で言われたのを、今でもよく覚えている。

それっきり、その後は言語学、比較文化論、異文化コミュニケーションの研究へと偏向していった私は、この語にはめぐり会うことはことなくいたのであるが、20年近くたった昭和45年(1970年)、もう中年になっていた私は初めて米国を訪れたのである。安月給の私は、経済的にそれまで海外に出られなったのであるが、私の英語現地調査計画が認められ、日本学術振興会から必要経費が出て、1ヶ月間米国内数ヶ所を見てまわったのである。

まず西海岸のサンフランシスコで市内と近郊をまわり、私のことだから、古本屋があると、必ずそこへ入ってその棚や足元に積んである本の山を丹念に見ていたのであるが、この書店の入口近くの壁に、次のような掲示文が目に付いたのであった。

・Browsing is welcome!

英語科学生時代に習った動詞 browse の日常的使用例を目の当たり見たわけであり、妙に嬉しかったのである。<時間をかけてゆっくり店内を見てまわってくださって結構です>ということで、懐の深い態度であった。



※[小山田注]現在では、コンピュータやスマートフォンや携帯などで、インターネット上のウェブサイトを閲覧する内蔵ソフトウェアを browser と言います。