前回のブログでは、私のクラシック音楽との出会いについて、特に、世界文化社発行の「世界の名曲」シリーズのLPレコードによりクラシック音楽に目覚めたとお話ししました。当時はアニメーション全盛時代で、テレビの子供向けアニメ番組が色々な局で何本も放映されていました。学校から帰ったら、真っ先に居間でアニメ番組を観るのがとても楽しかったと記憶しています。しかし、「世界の名曲」をレコードで聴く行為は、テレビでアニメ番組やバラエティ番組などを楽しむこと以上に、もっと魅力的に感じていました。 そこには、至上の喜びがありました。応接間のステレオセットのスピーカーから流れてくるレコードの魅惑的な音に耳を澄ますこと。それは私の中でいつしか「特別な時間」となっていました。レコードを聴きながら、私の心はいつも現実とかけ離れた空想の世界へと飛び立っていたのです。
「世界の名曲」のレコードの中での一番のお気に入りは、ピアノ曲でした。なぜだか分かりませんが、ピアノの音色に美しさを感じていたのです。ピアノの名曲はたくさんありますが、ピアノと言えば、「ピアノの詩人」ショパンを真っ先に思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ショパンは大人気作曲家で、私もショパンは大好きです。もちろん、ショパンの楽曲も「世界の名曲」全集に含まれてはいましたが、当時の私がショパン以上に心惹かれていた作曲家がいました。
そう、その作曲家の名は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。言わずと知れたクラッシック音楽、古典派の大家です。「世界の名曲」のレコードの何巻か目に収録されていた、彼のピアノソナタ第8番「悲愴」ハ短調 Op.13を、いつものように応接間のステレオで流し始めた瞬間、突然私の体の中をビビッと電流が走り抜けたのです!人生で最初にピアノの魅力に取り憑かれた瞬間が、まさにその出来事だったのです!!
第1楽章の暗く重いゆっくりとした序奏による出だしから、追い立てられるような疾走感みなぎる主部の第1主題が出現する。少しだけ哀愁を帯びた第2主題が続き、展開部で心ざわめく、不気味さを秘めた細かいパッセージの連続から、感情の高まりが最高潮に達した後、主部の第1主題が回帰する・・・気付けば、彼の描き出す音のドラマの虜になっていました。有名な第2楽章も、その時初めて聴きました。「ああ、なんという穏やかで優しいピアノの調べ・・・!」
それからの私は、さらにベートーヴェンのピアノ曲にはまっていきました。次にはまった楽曲は、カップリングされていたもう一つの彼のピアノソナタ第14番「月光」Op.27‐2でした。「見知らぬ国の見知らぬ土地で、幻想的な月の光に照らされた静かな湖の湖面を、一人小舟に乗って孤独に旅する」というイメージを勝手にもちながら、うっとりとその美しい音に耳を傾けていました。
今でもベートーヴェンの楽曲は大好きで、家やコンサートでもよく聴いています。ただ、聴くのは主に交響曲などの管弦楽曲ばかり・・・
久しぶりに原点に戻り、彼のピアノソナタを聴き直してみましたが、それがまた実に素晴らしい!!彼のピアノソナタは、ピアノ音楽の「新約聖書」と呼ばれているようですが、その理由は彼の音楽を聴いてみると納得です!
ベートーヴェンのピアノソナタは全部で32曲もあり、すべて素晴らしいのですが、前述の初期の2曲の他に、晩年の後期の3曲のソナタ第30番ホ長調 Op.109、第31番変イ長調 Op.110、第32番ハ短調 Op.111が私のお気に入りです。特に緩徐楽章では、彼の晩年の作品に多く見られる、ある種の透明感をたたえた音色が聞こえてきて、その雰囲気がたまらなくいいのです!
とにかく、その当時は、ベートーヴェンのピアノ曲に夢中になっている私でしたが、しばらくして、また、ある別の作曲家の魅力に取り憑かれてしまうことになるのです!!
その作曲家の名は・・・? また、別の回でそのお知らせができればと思います。