【命の期限】
かれこれ一年くらいのおつきあいになるお客さま
７０代のとても品のいいおだやかな女性。
あまり多くを語られないので、
わたしも一緒に静かに時を過ごす。
少ない会話のなかで、
ご夫婦二人暮らしなこと
お子さまはいないこと
お茶のお稽古に行かれていること
年末年始はホテルで過ごすこと
などを、
ぽつりぽつりとお話ししてくれた。
先日のGW前は、
お互い高齢になった友人夫婦を東京に呼び、
浅草観光などをする予定です。
もうこんな機会はないかもしれないですからね、と
上品な笑顔で、そのときは少しだけ言葉数多く話された。
そして先日、お越しになられたときのこと。
実はわたくし、一人になりまして。
亡くなったんです、主人が。
交通事故で。
ほとんど即死だったようです。
駅の近くの銀行の前の横断歩道を渡っているときに、
携帯を見ながら運転していた車にはねられて。
ええ、さみしいですね。
でも、亡くなると、
いろいろ手続きとか、
やることがいっぱいあるんですね。
しばらく忙しくて。
今日もこれから出かけなければいけません。
いつもと同じ、
きちんとした佇まいで、もの静かな笑顔で帰っていかれた。
誰にでも、やってくる。
いつかはわからない。
ごくありふれた日常に見えなくなってしまうけど、
必ずある命の期限。
