長い時間がかかったけれど、愛しい人よ

長い時間がかかったけれど、ようやく手に入れた


   


                         (long time comin’)より


2002年リリースの「ザ・ライジング」で久しぶりにEストリートバンドとスタジオ入りして絆を深めた筈のブルースは、何かの発作の様にまたバンド抜きの「ネブラスカ」「ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード」に次ぐアコギ中心のアルバムを制作した。それが2005年リリースの「デビルズ・アンド・ダスト」。


このアルバムでのEストリートバンドのメンバーの起用は、妻のパティ・スキャルファ、キーボードのダニー・フェデリチ、それからパティの古くからの友人でヴァイオリニストのスージー・テレルの僅か三人だけ。ただこの当時スージーが正式なEストリートバンドのメンバーであったかは不明。


このアルバム、大ヒット作「ボーン・イン・ザUSA」とは対極に位置する地味なアルバムだったが、何と全米ナンバーワンに輝いている。音楽的な意味に於いてコマーシャリズムからかけ離れたこんなモノクロなサウンドでも大ヒットした理由は、あくまで個人的見解として単純に曲の出来が良かったからだと感じている。


「ネブラスカ」や「トム・ジョード」の様にアルバムを聴く前にある程度の覚悟をしなければ、なかなか聴こうと思えない様な取っ付きにくさはこのアルバムには無い。



自らの核心から歌を描くと言うブルースの歌詞はと言えば、決して明るいトーンのものばかりでは無いが、ブルースの人柄を映し出したと思われる、厳しい現実に対峙しながらも常にどこかに救いが散りばめられているものばかり。


私はこのアルバムを初めて聴いた時に、ブルースの生み出すメロディと必ず救いをリスナーに与えてくれる温かみのある歌詞が、本当に好きなんだとしみじみ感じた事を思い出す。


ブルースは自らをロックンロールの囚われ人だと言ったが、我々熱狂的なブルース信者はブルースの音楽に単に共感したり心酔するだけではなく、魂の深い部分で強くブルースの描く世界にのめり込んでいる事に気づいているのだ。