空への目印 | 阿蘇の国のクララ

 

6月13日(日)...

 

豊後大野市(大分)へ...

 

「前にも来たね」

 

「普光寺(ふこうじ)よ」

 

別名あじさい寺と呼ばれています。

 

毎年6月中旬から

7月上旬の境内は、

約3000株の

色とりどりのアジサイで

埋め尽くされます。

 

お寺の入口には山門があります。

 

山門とは俗世との境を表す門で、

山門の前では、合掌とともに一礼します。

 

普光寺...

鎌倉時代に日羅によって創建されました。

 

願いを込めてろうそくに火を灯します。

 

 

「クー」

 

「吉祥塩、買わなくっちゃ」

 

「参拝の後は、アジサイ見学よ♪」

 

「クー♪」

 

「磨崖仏...、いつ見てもすごいね」

 

「クー」

 

不動明王坐像(高さ11.3m)

 

ママは境内のアジサイたちを

眺めていました。

 

穏やかな表情で、

とても大切な人をそばで

見つめているみたいに、

それを見ていました。

 

「私ね」

 

ゆっくりと瞳が私に向きました。

 

「アジサイが大好きなの」

 

境内のアジサイに視線が向きました。

 

植えられているアジサイは

これから満開になります。

 

「うちの庭にも

アジサイがあるでしょう。

ちゃんとアリスのことを

ここから見ているよって、

空への目印にしてるの」

 

「...丸福行く?」

 

「そうね」

 

「いまでも悲しい?」

 

琥珀色の瞳が私を見ました。

 

「何が?」

と、小さな声でママは言いました。

 

「アリスお姉さんがいなくなったこと。

悲しい?」

 

「いいや」

 

「悲しくないの?」

 

「悲しいとは思わないよ」

 

「じゃあ寂しい?」

 

さっきは間を置かずに返ってきた返事が、

今度は少し時間がかかりました。

 

ママは

「そうね」

とつぶやきました。

 

「あっ、雨...」