私はクララ | 阿蘇の国のクララ

熊本県阿蘇山、

1000メートル級の頂が連なる

活火山です。

 

3月、

人々がここで古くから続けてきた

風習があります。

 

...野焼きです。

 

火はこの一年間に生えた草を灰にします。

 

毎年火を入れることで

草原が木々でおおわれ森になるのを

防いでいるのです。

 

盛んに燃えていますが、

火は土のなかの根や種には届きません。

 

さらに、焼け跡の灰はこれから芽吹く

草花の肥料になります。

 

「火事みたい...」

 

数週間後、

草花があざやかに芽吹き、

たくさんの生き物が集まってきます。

 

 

私はそのなかのひとつ...

マメ科の在来種、クララです。

 

ここならいつでも栄養分と酸素が

波打ちながら送りこまれてきます。

 

安らぎとともに私は今日も、

深い眠りにつきました。

 

クララとオオルリシジミ

 

 

「アリス、アリスー!

どこにいるの」

 

つぎに目覚めると、

世界がぐらぐらと揺れ動いていました。

 

もしかしたらあれはイヌかな?

 

私はその生き物を楽しんで

眺めることにしました。

 

あんなにたのしそうに

自由に駆けまわって...

 

あんなにたのしそうに

遠くまで旅をして...

 

あんなにたくさん

愛されて...

 

神様...、

もし、生まれ変われるのなら、

私をイヌにしてください。

 

あのイヌのように

誰からも愛される、イヌに...。

 

 

あの日から、

7年10ヵ月後...

 

イヌ?

 

あの時のイヌが倒れている。

 

私はじっとその横たわる

イヌを見つめました。

 

「アリス、寂しいよ。

帰ってきて...」

 

私は泣きました。

 

なぜ泣いたのか、

自分でもわかりませんでした。

 

なにかが始まろうとしている。

 

もう一度すべてを始めるために、

私は跳びました。

 

「アリスちゃんにお花を...」

 

「そう、イヌを飼うことにしたの」

 

 

もう、ためらうことはありませんでした。

 

私はあの家族のもとに、

イヌとして誕生しました。

 

「アリスママ」

 

「私はクララ♪」