MOUSOU PAGER / BEYOND THE OLD SCIENCE | 5000VOLTもの電撃を受けるとシビれます

5000VOLTもの電撃を受けるとシビれます

自分がビリビリと刺激的電撃を受けたCDやレコードなどの音を中心に、レビューっぽい感じで綴っていきます。よろしくです。

出演DJがMUROっぽい選曲をする「妄想MUROナイト」というクラブイベントから派生したムーヴメント、MOUSOU PAGERの2020年8月発売のアルバム「BEYOND THE OLD SCIENCE」。

 

メンバーはSir Y.O.K.O. PoLoGod.、showgunnの2MCに、DJとビートメイクでKuma the Sureshotの3人組。

 

まずアルバムのジャケからしてニクい。数年前に出た12inchや7inchもMAD KAPやDIGABLE PLANETSサンプリングでニヤリとしたが、本アルバムはトライブの1NCE AGAINネタで、BEAT STREETやAMOEBAの値札オーバーゴーイングもイイ感じ。更に裏ジャケはピートロック&CLスムースだし、帯はMOBB DEEPのクィーンズの悪党(このアルバムの各曲の邦題センスまで帯裏で再現!)だし、90年代HIP HOPに対するグループの愛情がパッケージングから溢れ出てくるかのよう。

 

1曲目「INTRO ~サァ皆キキナ~」のサウンドから期待を裏切らない。良質なHIP HOPアルバムのそれだ。

2曲目「#MOUSOUPAGER」は興奮を抑えきれなくなるけたたましいドラムから始まり、2MCの掛け合いもバッチリなアルバムの名刺代わりとなるオープニングゲート。特にshowgunnの入りはこのアルバムで初めてグループの音源に触れるリスナーは度肝を抜かれるだろう。ペイジャー時代のMUROさんじゃん!

 

3曲目「誇大妄想 (Re-REC)」はグループが最初にサンクラで発表した曲。楽曲発表時はフックで歌われるようにこれは妄想(の延長線上という遊び)だったのだろうが、今となっては妄想では済まされないほどのバズを起こしている現実を踏まえると事実は小説よりも奇なり。

 

5曲目「DA RINGLEADER」はマイクゲストにTWIGY、プロデュースはBen the Aceと、遂に本物を引っ張り出した一曲。ミックス作品はゲトっていたもののBen the Aceの新しいビートをかなり久々に聴いたのだが、入りのドラムブレイクから色気を纏ったスペーシーな展開がホントに素晴らしい。spellboundの12inchを全部買ってた頃の俺に教えたい。欲を言えばTWIGYも90年代フロウでやって欲しかったが、現役のMCにOSをダウングレードしろというのは行き過ぎた要求か。

Sir Y.O.K.O.のKnowledgeなんてたかがソーセージというラインがめっちゃ好き。

 

6曲目「キキタリネエカ」は数年前に7inchカットされていた曲。ビートの質感ハンパないね〜。ラストのWho's The Man (With The Master Plan)使いもカンペキ。7曲目「360°~THREE SCRAPPIN' STUFF~」は同7inchのA面。これまた入りのドラムブレイクからオッサンBBOY殺し。俺と同世代の友人、ヒロ the 9mmのカーステで爆音で聴きながらドライブしたのだけど、ベースラインが先導するビートが湾岸辺りのシチュエーションにめちゃくちゃハマる。夜半に都内を走る足立ナンバーのVOXYは夜行列車と化した。

 

8曲目「真ッ黒ニナル過程 (Re-REC)」はBROWNSWOODのコンピに収録されてた名曲をリノベーション。フックのコスリ泣ける。showgunnのヴァースはMUROがA.Gとやってた曲のオマージュで、真ッ黒ニナル迄~真ッ黒ニナル果テの正当な続編としての位置づけを提示する。9曲目「SBY」は前曲のライブテイクから始まる構成にまたもニヤリとさせられる。日本中のBBOYの憧れだったがいつからか後継者がいなくなり店じまいした渋谷ブランドの看板を掲げる宇田川アンセム。

 

10曲目「BEYOND THE OLD SCIENCE」はアルバムのタイトル曲。疾走感溢れるKuma the Sureshot作のビートはスゴいことになっている。更に、キタキタキター!!!!と声が出てしまいそうになるゲストのAkeem the Dream!四街道ネイチャー諸作での好演、HELL RAISER CARTEL、リトルトーキョーと、このお方はホント外さない。一気に90年代フレーヴァーを加速させる。2MCの気合もバッチリ。越えろ〜越えろ〜不可能な壁乗り越えろ〜。

 

11曲目「鸞翔鳳集 -RUNSHOWHOSYU-」はタイトルからしてもうズルい。聞いたことないけど難しい漢字が多くてなんか意味ありそうな四文字熟語は当時のお約束。フックは本アルバムで一番アノ時代に持っていってくれる。鬼哭啾啾をサンプリングしたジャケもよかった。

 

12曲目「JAPANESE LESSON -The Check-」はKuma the Sureshotの独壇場。タイトルが示す通りのLESSONモノで中毒性高め。13曲目「FAN RHYTHM (Re-REC)」は2000年前後の、赤道にどんどん近づいていってた頃のKINGを彷彿とさせるストローハットチューン。showgunnの「ラップ取ったらタダのデブ」というラインは、御本人が言っているような錯覚を起こして一瞬ドキッとする。

 

15曲目「HUG NIGHT(Re-REC)」は1st 12inch収録の初期曲。Sir Y.O.K.O.のヴァースは仕掛けが多くて聴いててニヤニヤしてしまう。16曲目「夢幻泡影」はここまでの流れを一旦落ち着いて消化しながら想いを馳せられるレイドバックした一曲。アルバム本編はここで一区切り。

 

ここからはボーナストラックとして、ドイツ盤やUK盤には収録されていないREMIXが日本盤には6曲も入っている。

 

17曲目「誇大妄想 (Illicit Tsuboi Cloud 9 Remix)」は出だしのプチノイズからもうイリシット・ツボイの本気度が伝わってくる。曲を通してアイディアめっちゃブッ込んでるな〜。ラップも録り直した力作。18曲目「360°~THREE SCRAPPIN' STUFF~ (8ronix '96 RMX)」はマジで96年辺りの12inchのB面に入っていそうな質感を醸し出すサイコーなREMIX。

 

20曲目「BEYOND THE OLD SCIENCE (DJ JIN's Dreaming-a-Dream Remix)」は近年のライムスターでは絶対出さないDJ JINのBLACK SHEEPばりに地を這うベースラインが秀逸。22曲目「#MOUSOUPAGER Pt. 2」の軽快なビートと2MCのテンションはアルバムが終わってしまうとは思えない余韻を残す。

 

全22曲。

宇多丸がラジオで、これが90年代にリリースされていたら大クラシックだ!と、当時をサバイヴしたプレイヤー目線でも絶賛していたのが納得できるほどの完成度。色モノだと思って敬遠していました的なコメントをネット上で少し見たけど、そんな感受性に乏しい連中すら一発でアノ時代に持っていくであろう、仕掛けられた90年代トリックの数々。年末の様々なアワードにノミネートされる事も想像に難くない、帯の(SDPの)言葉を借りるとまさにこれぞローファイ大本命盤。

 

四半世紀を超えてMICROPHONE PAGERの2ndアルバムを2020年に聴くコトが出来るなんて考えもしなかった。王道楽土はコンピだったでいいじゃないか。これが正史でいいじゃないか。

 

マイク5本、いや、5000VOLT