「アスランが婚約?」
夕食の時間、たまたま正面に座った、同期だけど2つ年上のイザークから聞いて、僕はびっくりした。
だって、アスランはいくら首席でも、まだ14歳。早すぎる!
「ああ。それも相手はあのラクス=クラインだぞ! 合わないのもわかってないのか! あいつは!」
「でも、親が決めたのでしょう?」
そうとしか考えられない。
「わかっているさ!」
バシン! とテーブルを叩くイザークを見ると、何だか嫉妬に見える。
いや、完全に嫉妬しているのだろう。
何しろイザークは、ラクス=クラインのファンだから。
それも、なぜ自分ではなくアスランなのかも…。
その気持ちだけはわかる。
なぜ、アスランが婚約者に選ばれたのか…。
それを考えるだけで、胸が痛む。
アカデミーに入った時から、僕はアスランを尊敬しているし、何より好きだから…。
「イザーク、決まってしまった事はどうしようもないですよ」
「それもわかっている!」
頭ではわかっているのに、心では理解できない。そういう事だろう。
僕とイザークはある意味、一緒なのかもしれない。
「…でも、何だか意図的なものを感じますね」
「は?」
怒りだけしかなかったのか、イザークは落ち着くためにコーヒーの入ったカップを取った。
「考えても見てください。アスランとラクスさんの父親は議長です」
「ああ。…どうせ俺の母は議員だ!」
「そうですが…。僕が言いたいのは政略結婚ではないかと…。そういう意味ではアスランもラクスさんも被害者ですよ」
「あ…。…例えそうだとしても許せんもんは許せん!」
「イザーク、叫びすぎだ」
横から声が聞こえて、そちらを向くと、話題の中心、アスランだった。
「さっきから注目の的だぞ」
隣良いか? と、アスランは僕の隣に座った。
夕食時だというのに、アスランの持っているトレイの上にはティーカップしか乗っていない。
「アスラン、食事はしないんですか?」
「あ…ああ…外で食べてきたからな」
「ラクスさんの所で?」とは聞けなかった。
まだ、アスランとラクスさんの婚約発表はされていないから。
「それで? なぜイザークは叫んでいたんだ?」
それを言ってしまえば、発表前に知ってしまった事を教える事になる。
僕はどう言えば良いのか悩んでいたのに、イザークが速攻で言ってしまった。
「お前と、ラクス=クラインの婚約の件だ」
「ああ。その事か。でもなぜイザークがそんなに怒っているんだ?」
…アスラン…。…それはわざと…? …いや、アスランの事だから、本気で言っているのだろう。
アスランは鈍感だから…。
「なぜ、お前なんだ!」
「さぁ? 父にでも聞いてくれ。父が勝手に決めた事だ」
アスラン…?
言っている時のアスランの瞳が、何だか辛そうに見えた。
イザークは何も言わないから、気のせいかもしれないけど…。
アスランは紅茶を一気に飲むと、席をはずした。
やっぱり、イザークとは合わないんだ(笑)
急いで、食事を片付けると、僕は部屋に戻る。
幸いな事に、僕とアスランは同室なんだ。
「アスラン、どうかしたんですか?」
ソファーに座ってボーとしているアスランに声をかける。
「…ニコル……。お前の近くにいると落ち着くな」
それはどういう意味だろう?
考える間もなく、アスランが口を開いた。
「ニコルから見て、ラクスはどういう性格だと思う?」
…僕から見た、ラクスさん?
「えっと…しっかりしていて、自分の考えを持っている人、だと…」
「……はぁ……」
アスランは呆れたような、大きなため息を吐いた。
「…違うんですね?」
「ああ。自分の考えは持っているが…実際会ってみて、天然だと知ったよ…」
それでアスランは疲れていたのか。
「やっぱり俺は、ニコルのようなタイプの方が合っている気がするよ…」
え?
それって、どういう意味? アスラン……?
「アスラン…?」
心は動揺しているのに、表情は平常を保つことができた。
…と、思っていた。
「…俺では、嫌か?」
「え? …えっと……あの…………………」
アスランは何を言っているのだろう?
もう、僕の頭はパニックどころの話じゃない。アスランの今の言葉がフリーズして、何も考えられない。
「…ま、婚約者がいる俺が言っても、信用度はないな」
「あ…アスラン…何を………」
言っているんです?
アスランはソファーから立って、椅子に座っている僕の前まで来た。
「ニコル…」
「は…はい…」
僕はどうしていいかわからず、ただ返事をするしかなかった。
「お前が、好きだ」
………………………………………………え?
「ええー??」
な…な…な…
「やはり、信じられないか?」
全身すべてパニックを起こしている僕を、アスランは悲しげな表情で見つめる。
「い、いいえ! 嬉しいです! あの…僕もずっとアスランの事が好きなので……」
「本当か?」
「は、はい…」
言ってしまって、急に恥ずかしくなった。
それに、アスランにはラクスさんがいるのに…。
それを言うと、アスランはきっぱりと
「政略結婚だ」
と、教えてくれた。
これから、大変な事が起こるだろう。
でも、その時、アスランがいれくれたら、僕は何でもできる。
アスランの笑顔を守りたいから…