上位陣に関して私が予想していたことは、みんなと同じ、とにかくフェルスタッペンの独走だ。なので優勝争いには興味がなかったのだが、ルクレールについては1ストップをするだろうという予想だ。
あとは、どのドライバーが落ちてくるか。角田は後ろのドライバーに抜かれると予想していたので、1台、欲を言えば2台落ちてこないと、角田がポイントを稼げないと考えていた。
候補としてはやはりペレスだろう。彼の不安定さは何もしなくても順位を落としてくれるかもしれない。もう一人はルクレールか、もう一台チャレンジすると考えていた1ストッパーが候補だ。残タイヤで言えばメルセデスの一台。ふたりとも、ハードを2本残しているからだ。
もう一人の候補はアロンソ。アロンソは決勝ペースに不安があるし、スタートタイヤで新品ソフトを履いてきた。ソフトのタレが大きければ角田にもワンチャンスあるだろう。
■グリッド
1.フェルスタッペン レッドブル
2.ペレス レッドブル
3.ノリス マクラーレン
4.サインツ フェラーリ
5.アロンソ アストンマーチン
6.ピアストリ マクラーレン
7.ハミルトン メルセデス
8.ルクレール フェラーリ
9.ラッセル メルセデス
■スタート
案に相違してペレスが好スタート、レッドブル1、2のまま上位陣は顔ぶれが変わらないまま赤旗中断となった。
■リスタートのタイヤ選択
レッドブル、マクラーレンはスタートタイヤのミディアムを継続。フェラーリは新品ミディアムを2本残していたためミディアムへ変更。メルセデスは予想通りハードを使ってきた。実質1ストップのはずだ。
アロンソは奇妙なことにスタートで使ったソフトタイヤを継続した。アロンソはソフト、ミディアム、ハードを1本ずつ残していたので、これで2ストップが確定した。
■リスタート
リスタートではミディアムのルクレールがハミルトンを交わして7番手に上がった。
■リスタート後の順位
1.フェルスタッペン レッドブル
2.ペレス レッドブル
3.ノリス マクラーレン
4.サインツ フェラーリ
5.アロンソ アストンマーチン
6.ピアストリ マクラーレン
↑7.ルクレール フェラーリ
↓8.ハミルトン メルセデス
9.ラッセル メルセデス
■マクラーレンが仕掛ける
フェルスタッペンが順調にリードを広げる中、11周目にピットに飛び込んだのは3番手を走っていたランド・ノリスだ。これは面白い。ノリスはレッドブルをアンダーカットしにいったわけだが、もしレッドブルが反応して早めにピットインしてしまうと、1ストップのフェラーリと挟みこめる。ノリスはフェルスタッペンに対しておよそ7秒後方にいたが、ピットストップで29秒後方に下がった。ピットインのロスタイムはおよそ22秒であることがわかる。
角田などの中団グループはソフトタイヤスタートだったため早いタイミングでピットインしており、ノリスをアンダーカットしたはずだが、ノリスは楽々とソフトタイヤ勢の10秒前で復帰した。これは昨年と同じ結果だ。新品ならまだしも、わたしが中断リスタート時の角田の中古ソフトに否定的見方をした理由なのだ。
13周目、ピアストリがピットイン。ノリスの後方11秒で復帰した。ピアストリは11周目1:39.2。ノリスは13周目が1:35.7だから、3秒5もラップタイムが違ったわけだ。これがアンダーカットの効果である。
この時点でノリスはフェルスタッペンの24秒後方だ。だいぶ近づいてきている。
■アロンソの驚異的なタイヤ管理
アロンソは中古ソフトで12周走り13周目終わりにピットイン。ソフトタイヤは本来であればライフの終わりを迎えズタズタになっているはずだが、じっさい中団グループトップだった角田はラッセルのペースについていけずにアンダーカットを嫌ってピットインしたわけだが、アロンソはフェルスタッペン後方13秒、ラップタイムは1:38.7で走っている。ハードタイヤの角田は1:40.0だから、アロンソはタイヤをセーブしつつめちゃくちゃ速い。これでアロンソはノリスとピアストリの間に復帰した。先にピットに入ったマクラーレンはハード、アロンソはソフトだ。
■14周目の順位
1. フェルスタッペン ミディアム12周
2.+5 ペレス ミディアム12周
↑3.+9 サインツ ミディアム12周
↑4.+16 ルクレール ミディアム12周
↑5.+19 ラッセル ハード12周
↑6.+20 ハミルトン ハード12周
↓7.+25 ノリス ハード2周
↓8.+35 アロンソ ミディアム0周
↓9.+37 ピアストリ ハード1周
※+表示はフェルスタッペンとのタイム差
※矢印は前回順位を整理した時からの順位変動
■ミディアム勢1 回目のピットイン
15周目終わりにフェルスタッペンから6秒後方の2番手を走行していたペレスがピットイン。続いてフェルスタッペンから10秒後方3番手のサインツもピットインを行い、ミディアムタイヤ勢がルーティンのタイヤ交換に入った。ペレスはノリスとアロンソの間、サインツもノリスの後ろで復帰しアロンソのアンダーカットを許さなかった。
続く16周目の終わり、ノリスに23秒差まで詰められていたフェルスタッペンがピットイン。ピットストップは予定通り22秒、ノリスにアンダーカットを許さずノリスの前でレースに復帰した。
実はこのピットイン、なかなかな凄みがあった。フェルスタッペンとノリスのタイム差ははこの週始まりで23秒差だったのだ。本来であれば1周するうちにノリスに詰め切られてしまう。だがノリスの前にはラッセルとハミルトンのメルセデスがいたため壁となった。ようやくノリスがハミルトンをパスしたところ、フェルスタッペンは辛くもノリスの目の前でコースに戻ったのだ。フェルスタッペンとノリスは軽々とラッセルをパスしていく。
まだピットに入っていないのはルクレール、ラッセル、ハミルトン。ラッセルとハミルトンはフェルスタッペンとノリスに抜かれてしまったが、ルクレールはフェルスタッペンの3秒前方で、ハードタイヤに交換可能な23周のウインドウが開くのを待っている。
■20周目順位
↑1. ルクレール ミディアム18周
↓2.+1 フェルスタッペン ミディアム3周
↑3.+4 ノリス ハード8周
↓4.+6 ペレス ミディアム4周
5.+9 ラッセル ハード18周
↓6.+10 サインツ ミディアム4周
↓7.+12 ハミルトン ハード18周
8.+14 アロンソ ミディアム5周
9+16 ピアストリ ハード6周
※+表示はルクレールとのタイム差
※矢印は前回順位を整理した時からの順位変動
■1ストップのルクレールにチャンスはあるか
だがその23周目をまたず、21周目に取り掛かったストレートエンドでルクレールはあっさりとフェルスタッペンにトップを譲った。
ノリスのアンダーカットにも動じずギリギリまでピットインを遅らせ、2スティント目のミディアムタイヤのライフを守ったフェルスタッペン。そもそもクルマが速いのだが、他の車に踊らされず、なるべくコンサバに、王道の最も速い作戦を遂行されると、他のクルマのつけ込む隙はない。
■ではもうフェルスタッペンのことは忘れて
フェルスタッペンは別次元であることが確認できたので彼のことは忘れて、実質的な優勝争い(2位争い)を見ていこう。
リスタート時はペレス、ノリス、サインツ、アロンソ、ピアストリ、ハミルトン、ルクレール、ラッセルだった2位以下。
21周終了時点ではルクレール、ノリス、ペレス、ラッセル、サインツ、ハミルトン、アロンソ、ピアストリになっている。
つまり見かけ上、1ストップのルクレールが7番手からトップに躍り出て、2位ノリスはペレスのアンダーカットに成功し、アロンソ、ピアストリはメルセデスの1ストップに苦戦している、という状況だ。次のイベントは1ストップ勢のピットイン、おそらく23周目だ。
■1ストップ勢のジャンプアップはあるのか
予想通りの23周目、ラッセルがピットイン。ピアストリの後方に下がる。ピアストリとの差は18秒、この差を保てればピアストリのピットインでラッセルが前に立ち、リスタート時の順位を逆転する。
その後フレッシュタイヤのピアストリが差を詰め、コース上でラッセルを抜けるか、という話になるので、ラッセルはフレッシュなタイヤのうちにピアストリをどれだけ離せるかというのがポイントだ。ピアストリを抑える形だったハミルトンも翌週にピットインだ。
ちなみにこの23周目、中団グループの一斉ピットインでRBチーム角田はピットで3台ゴボウ抜き事件が起きていて、現地ではここまで細かく把握できていない。
■25周目順位
↓2. ルクレール ミディアム23周
↑3.+0 ペレス ミディアム9周
↓4.+3 ノリス ハード13周
↑5.+6 サインツ ミディアム9周
↑6.+12 アロンソ ミディアム11周
↑7.+15 ピアストリ ハード12周
↓8.+9 ラッセル ハード2周
↓9.+12 ハミルトン ハード1周
※+表示はルクレールとのタイム差
※矢印は前回順位を整理した時からの順位変動
■1ストップ勢最後のピットイン
ルクレールはペレスにパスされ、ノリスに0.5秒に詰められたた26周終わりにピットインした。しかしここで、申し合わせたわけではないだろうにノリスも2回目のピットに入ってしまう。つまりルクレールの1スティントと、ノリスの2スティントが一緒である。それでルクレールにパスされているのだから、ノリスの作戦はルクレールよりも遅かったということになる。
2台がピットから出てくるとそこにはラッセルがいた。ノリスはラッセルをパスできずにルクレール→ラッセル→ノリスの隊列になってしまった。ペレスとの差は24秒だ。
32周目終わり、ピアストリが2回目のピットイン。ハミルトンにも抜かれてトップグループ最下位に落ちてしまった。
■33周目順位
↑2. ペレス ミディアム17周
↑3.+5 サインツ ミディアム17周
↑4.+15 アロンソ ミディアム19周
↓5.+18 ルクレール ハード6周
↓6.+21 ノリス ハード6周
↑7.+24 ラッセル ハード10周
↑8.+28 ハミルトン ハード9周
↓9.+40 ピアストリ ハード0周
※+表示はルクレールとのタイム差
※矢印は前回順位を整理した時からの順位変動
■おいおいペレスよどこまで
ペレスは33周目終わりにピットイン。アロンソも同じタイミングだった。ペレスはノリスの後ろに戻った。アロンソはハミルトンの後ろ、ピアストリの前である。
ペレスは早速ノリスをパスしルクレールまで1.7秒とし、36周目、ファステストを叩き出しながらルクレールをパス。フェラーリが1ストップでレッドブルに勝つという夢を砕いた。レースから除外しないといけないのはフェルスタッペンだけでなく、ペレスもだった。
■熾烈な3位争い
36周目終わりでサインツがピットイン。ハミルトンの後ろにつける。状況は以下の通りだ。
3番手 ルクレール ハード10周
+2 ノリス ハード10周
+6 ラッセル ハード14周
+10 ハミルトン ハード13周
+11 サインツ ハード0周
+16 アロンソ ハード3周
+16 ピアストリ ハード4周
※+表示はルクレールとのタイム差
※矢印は前回順位を整理した時からの順位変動
見かけ上、1ストップ勢が2ストップ勢の前に立っている。2ストップ勢はおよそ10周のライフ差があるタイヤでどれだけ追い上げるか。コース上でのガチンコ勝負だ。サインツは上位のクルマよりも10周ほど新しいタイヤでコースに戻ったので。後半戦はサインツのオーバーテイクショーになるだろう。
37周目終わり ラッセルがまさかのピットイン。9番手にドロップしたが、なんとチョイスしたのはスタート時に履いていた中古のミディアムだ。
翌週、今度はハミルトンがピットイン。9番手に落ちてきた。アロンソは労せずして6番手を確保だ。メルセデスは1ストップから2ストップに切り替えてきたようだ。
■41周目順位
3.+15 ルクレール ハード14周
4.+2 ノリス ハード14周
↑5.+5 サインツ ハード4周
↑6.+15 アロンソ ハード7周
↑7.+15 ピアストリ ハード8周
↓8.+23 ラッセル ミディアム3周
↓9.+32 ハミルトン ミディアム0周
■サインツオーバーテイクショー
抜けないといわれる鈴鹿だが、タイヤのライフ差があってペースが違えば抜けるようになってくる。
44周目、サインツがノリスをパス。
46周目、サインツがルクレールをパス。
予想していた通りのサインツオーバーテイクショーを堪能し、これでようやく緊迫した上位グループのバトルが終わった。
■最終順位
1位 フェルスタッペン
2位 +13 ペレス
3位 +20 サインツ
4位 +26 ルクレール
5位 +29 ノリス
6位 +44 アロンソ
7位 +46 ラッセル
8位 +48 ピアストリ
9位 +49 ハミルトン
■別次元を再確認したレッドブル
昨年いやというほど生でも見せつけられ、今年もスタートから独走態勢を築いているレッドブル。途中からは3番手以下のバトルを見るノイズのように見えてしまった。
■フェラーリ殊勲、だが速かったのは2ストップだった!
レース前から「ルクレールは1ストップ」と予想して、当たったので気持ちよかった。予想通りルクレールはジャンプアップ。1ストップ作戦の優位性を見せた。だがリザルトで前に上がったのは2ストップのサインツだ。ミディアム→ミディアム→ハードの作戦が最速という証明になった。
レース中盤はルクレールの1ストップ、終盤は2ストップのサインツがレースを盛り上げた。
■早めのピットインが不発に終わったマクラーレン
ノリスはミディアム→ハード→ハードの2ストップだが、ノリスは11周目、23週目にストップし、26週目というタイミングはルクレールと同じタイミングだった。ノリスは3番グリッドからスタートし、フェルスタッペンへ挑んだように考えられえるが、残念ながらフェルスタッペンの前に出ることはできず、後方のフェラーリにはその穴を突かれた形となってしまった。
ピアストリは昨年の殊勲者だが、レースペースが遅かったか。
■混乱したメルセデス
リスタートでのハードスタートは面白い作戦だったが、1ストップ作戦はうまくいかず、後半は不可解にミディアムタイヤへ変更したメルセデス。無線でも作戦が混乱している様子が見て取れた。一台ずつ違う作戦をとれば、違う展開もあったかもしれない。
■我が道を行き続けたアロンソ
ソフトタイヤスタートのアロンソは、そのソフトタイヤをミディアムタイヤスタートのウインドウまで持たせ、ルクレールに抜かれてしまったものの5番グリッドから6位に入賞した。追い抜きとは無縁のいぶし銀の走りだったが、本人によると「キャリアで5本の指に入るレース」だったそうで、いやほかにもあっただろ、とは思うが、「クルマをうまく走らせられた」という観点では満足だったのか。
レース後にアストンマーチンとの契約を2026年まで延長したアロンソ。上記コメントにはそういう意図もあったのかもしれない。
というわけで、リスタートからノリスの仕掛け、アロンソの快走、フェルスタッペンの横綱相撲、ルクレールの1ストップ、ペレスの返り咲き、サインツのオーバーテイクショーと、角田のレースを楽しむことはもちろん、角田と絡むことのなかった上位陣のバトルも見どころ満点な2024年の鈴鹿だった。