サーキットの生観戦でレースの全貌を把握することはとても難しい。応援するドライバーだけ見ているのならそうでもないのだが、20台のクルマがそれぞれどういう状況にあるか現場で把握するのは至難の業だ。わたしは角田のレースと、上位陣のレースの2つを分けてみていた。私が見た角田のレースについて書いておこう。


 ピレリから各ドライバーの持ちタイヤが発表されると、ドライバーたちの残りタイヤからそれぞれのピット戦略とレース戦略を予想する。この時間が至福の時間である。レースなんてスタートしないでこのままでいられたらなんと幸せだろう。

 そんなに幸せなレース予想なのに、なんで鈴鹿以外は真剣にやらないんだろう?そうすれば鈴鹿でももっとうまくできるのに。・・普段は時間がないからだ。F1日本グランプリでは2日の時間F1に捧げている。

 

 レースタイヤが発表されるとひとつ大きな驚きがあった。11番手スタートのリカルドがミディアムスタートだったのだ。新品のソフトを持っているはずなのに。これは角田にとってグッドニュースだ。11番手だが「クリーンなグリットからスタートできる」と言っていたリカルドがスタートの一番の脅威だったからだ。

 それ以外は、トップ10はアロンソのソフト以外は全員ミディアム。この中に1人、2人1ストップがいるだろうと予想していた。

 

■スタート

 強い日差しが届く中スタートしたが、角田がかなり順位を落としたため、順位の確認でトップあたりがポジションキープであること以外はよくわからなかった。

 ダンロップを駆け上がってくるクルマを数えているうちに赤旗が告げられ、その情報でカウントが分からなくなってしまった。赤旗の原因はS字でのクラッシュ、全車スピードを落したあと順位を確認すると角田は12位だ。クラッシュしたのはアルボンとリカルドだ。ソフトスタートのアルボンがS字1つ目、左カーブの侵入でアウト側からリカルドに並びかけたところ、リカルドがアルボンを弾き飛ばしてしまった。

 角田はリカルドと一緒に驚くほど緩慢なスタートダッシュだった。2人がずるずると後方に落ちていく。心配していた通りまんまと角田はソフトタイヤの餌食になってしまった。

 

■リスタートのタイヤ選択

 赤旗中断となるとピット作戦が考え直しとなる。新品ソフトでスタートした10番手ヒュルケンベルグ、11番手ボッタスは新品ソフトを使ってしまった。ということは彼らはミディアムタイヤに履き替えるだろう。12番手の角田は中古のミディアムか、1ストップの新品ハードを履いて1ストップ作戦もあるか。くらいに考えていたのだが、スタートタイヤを見てびっくり。3人とも中古のソフトだ!何考えてるんだ。中古ソフトスタートがダメな戦略なのは昨年やっただろうに。

 上位陣ではミディアムを2本持っていたフェラーリが新品ソフト、メルセデスの2人が新品ハード、それ以外のレッドブル、マクラーレンは中古のミディアム続行だ。

 さて問題は角田の中古ソフトである。これは全くの予想外だったのだが、一つだけ心当たりがあった。 1回目のスタートで気になったのは、角田だけではなくリカルドも、RBの2台ともスタートが悪かったことだった。両方新品のミディアムでタイヤは一緒。後方がソフトタイヤだったとしても、角田とリカルドの2台はまるで止まっているかのように追い抜かれていた。ということは、RBがスタートシステムのパラメータを誤っている可能性が考えられたのだ。同じミディアムタイヤでスタートして、またスタートを失敗することを嫌ったのだろうか。

 

予選かな?の角田。


■リスタート

 リスタートは3ラップ目からだった。再スタートとなると、アルボンには悪いが1日に2回スタートが見られて得した気分になるものだ。

 スタンディングのリスタートでは角田が驚きの猛ダッシュでハードタイヤのラッセルまで食って9番手に順位を上げた。珍しい好スタートだ。だがあっという間にラッセルに抜かれて10番手へ後退。多少タレているとはいえソフトタイヤをハードがかるがるとが抜いていくなんで、、トップ5との差は大きい。

 角田がラッセルの後ろについていったのはせいぜい1周だった。その後はみるみるうちにラッセルから離されていく。タイヤがダメになってきているのだ。中古ソフトでスタートした2023年、角田は8周でピットへ入っているわけだから、おそらく同じくらいのタイミングになる。と予想していると、ハースのヒュルケンベルグが6週目、早々にアンダーカットのためピットへ。このピットインがアンダーカットを防ごうとほかのピットインを呼び込む。翌7週目にボッタスがピットに入りかろうじてヒュルケンベルグの前に出たかと思うと、その翌8周目には角田がピットイン。ヒュルケンベルグの前にはなんとか出たものの、ボッタスの後ろになってしまった。

 

■ボッタスを抜けない角田

 ボッタスの後ろにつけた角田はなかなかボッタスが抜けない。ボッタス-角田-ストロール-ヒュルケンベルグが数珠つなぎでマグヌッセン-サージェント-オコンの下位チームへ追いついていく。ボッタスはさすがにオコン、サージェントを軽々とパスしていき、マグヌッセンに詰まってしまった。角田はオコンは抜けたがサージェントが抜けない。ストロールは角田の背後に迫る。23週目、そうしてつながった10番手マグヌッセン-11番手ボッタス-12番手サージェント-13番手角田-14番手ストロール-15番手ヒュルケンベルグの6台のうち、マグヌッセンからストロールまでの5台が一斉にピットへ入った。残り30ラップ、ハードタイヤなら走り切れる周回数だ。お互いにアンダーカットをしに行ったつもりが、同時ピットだ。

 

■5台同時ピットイン

 私の席からはピット出口が見えない。目を凝らして1コーナーを見つめていると、トップに角田が見えた気がしたが、周りの観客は1コーナーが遠くてよくわかっておらず、確信が持てない。ダンロップを駆け上がってくる姿でようやく角田がトップであることを確認したとき、スタンドから一斉に歓声が上がった。角田11番手!ピットクルーのおかげで、一気に中団グループの先頭に立ったのだ。だが角田の後方0.5秒の位置にストロールがついてきている。クルマの性能でいえばストロールのほうが上だ。抜かれてしまうかと心配したが、角田は微妙に、周に0.1秒ずつゆっくりとストロールを引き離し始めた。

 次の心配は10番手のヒュルケンベルグだ。5台同時ピットインから漏れてしまい、20週走ったハードタイヤで周回を重ねていた。フレッシュなタイヤを履いた角田はどんどんヒュルケンベルグとの差を詰める。マグヌッセンもストロールの後ろについてきているため、小松代表のハースが何かやってくるかと思ったが、角田は逆バンクでアウト側からヒュルケンベルグを下し、ポイント圏内の10番手に返り咲いた。

 

■まだまだ心配させる新品ソフトのストロールの追い上げ

 10番手に上がった角田はヒュルケンベルグを壁に使いストロールをDRS圏外に追いやった。じょじょに角田が後続を引き離し始めたところ、11番手のストロールがピットイン、まさかの新品ソフトタイヤに交換して、後続を追い抜きながら、ソフトタイヤの優位なペースで角田を追い上げてきた。ストロールがボッタスを抜き角田に続いて11番手に上がってきたのは残り7周だったと思うが、それまでストロールは1周1秒ペースで角田を追いあげており、ちょうど角田の7秒後方というところだった。このペースなら何か起こるかもしれない--と心配させたが、ストロールはボッタスを抜いた直後にペースダウン。タイヤが寿命を迎えてしまい、かえってボッタスを抜いて12番手に上がってきたヒュルケンベルグの攻撃を防戦する立場になってしまった。

 

■ポイントを獲得するのは本当に大変

 こうして角田はめでたく1ポイントを獲得した。本当に激しい戦いで、様々な試練が訪れ、自分たちで試練を呼んでしまったところもあったが、今回はピットクルーに助けられ、非常に見ごたえのあったグランプリだった。

 角田とRBの失敗の一つは、Q3で10番手にとどまったことだと思う。どうせ上位は望めなかったのだから、Q3は中古タイヤでお茶を濁しておいてもよかった。なぜなら、Q3に進出して新品ソフトを持たない10人の中に入ってしまうと、11番手以降の新品ソフト勢にスタートで必ず不利になるからだ。新品を使うならせめて9番手にならないといけなかった。

 二つ目は、スタート失敗。抜かれることは予想通りだったのだが・・

 三つめは、2回目のスタートで中古のソフトを使ったこと。継続してミディアムを使っていれば、もしスタートで順位を上げなかったとしても何とかなったと思う。これはあとでデータを見て検証したい。

 四つ目は、角田は追い抜きが下手だということ。ボッタスもサージェントも自力で抜けなかった。

 これらの失敗を跳ね返したピットでの2台抜きは本当に素晴らしかった。ピットでもコース上でも見せてくれた角田とRB。今まで見てきた生観戦のレースの中でも、上位に数えられる面白さだった。