冬になると毎年登山(映画を見たり小説を読む)ブームが来るのだが今年はあまり見なかった。だが本作をNetflixで発見。

 

 ネパールのグルカ兵だったニムス(ニルマル)プルジャは「プロジェクト・ポシブル」を計画した。7ヶ月で8000m峰14座を制覇するというプロジェクトは、周囲から「絶対に不可能」と言われるがーー

 

 8000m14座制覇というのはイタリアのラインホルト・メスナーが達成した有名な記録なのだが、14年もかけて達成したというのは、もしかしたら聞いたことはあったかもしれないがあまり気にしていなかった。

 ニムス挑戦時点ではこの記録の最短が7年のまで縮んでいたのだそうだ。普通に考えれば8000m峰はシーズン1回。春、秋と挑戦していけば、14座の成功は7年後ということになる。

 

 それをニムスは「7ヶ月でやる」という計画を立てた。周囲に無理だと反対された。ニムスは言う。「オレの辞書に『諦める』という言葉はない」。

 子供の頃はやんちゃで手がつけられなかった。グルカ兵になって英国特殊部隊に入隊した。ネパール人で初の特殊舟艇部隊に配属された。銃撃戦で屋上から仲間を援護していたところ気づいたら地上に落ちていた。狙撃手に狙われたのだが、銃のエクステンダーに当たったため一命をとりとめた。その経験から『やれることは全部やる』ことに気づいた。

 うん、、、このストーリーあやしい。こういった『冒険家』にありがちな山師の匂いがする。

 映画のスタートは支援スタッフの紹介で始まる。ミングマデビット。ゲルジェン。ラクパデンディ。ゲスマン。ニムスはいう。シェルパにも名前がある。一人ひとりが大事なのだと。

 

2019年

 04.23 アンナプルナ

 05.12 ダウラギリ

 05.15 カンチェンジュンガ

 05.22 エベレスト

 05.22 ローツェ

 05.24 マカルー

 07.03 ナンガ・パルバット

 07.15 ガッシャーブルム1

 07.18 ガッシャーブルム 2

 07.24 K2

 07.26 ブロード・ピーク

 09.23 チョ・オユー

 09.27 マナスル

 10.29 シシャパンマ

 

 登頂日と山をメモりながら見ていたが、この記録は驚異的なものだ。いったいどうやって達成したのか。だがすぐにその謎は解ける。あー、やっぱりか、と思った。彼らのチームはシェルパがルート工作を行い、ニムスが整備されたルートを酸素ボンベを担いでアタックする、完全分業制なのだ。恐らく、ニムスがアタックに入るとルート工作チームは次の山へ移動してルートを整備している。準備万端のところにニムスが二日酔いで到着、酸素マスクを担いで1日で山頂を目指す。という話も挿入されていた。二日酔いはカンチェンジュンガでのエピソードだが、基本的に移動はヘリコプターのようだった。とんでもない金満チームである。ニムスが資金集めに苦労するストーリーがあるが、Netflixをスポンサーにしたのだろう。

 

 このような登山は当然の帰結として激しい批判にさらされる。それを予期してNetflixは登山会の権威のお墨付きを強調する。ラインホルト・メスナー、生きながらの伝説だ。また、登山中に遭遇した遭難者の救助の様子にもフォーカスしている。アンナプルナでは登頂翌日、ヘリコプターで救助に向かった。カンチェンジュンガでは登頂直後に遭難者を見つけ、自身の酸素を与えた上救助チームを待ち付き添っている(残念ながら救助はこずに遭難者は亡くなった)。しかもニムスは無酸素で高地に留まったためHACE(高地脳浮腫)を発症したという。

 信じがたいのはそのたった1週間後にエベレストを落としていることだ。HACEってそんなに簡単に治るの?調べてみると治療には数時間から数日なのだという。ニムスならばヘリで高度を下げられるだろうし、軽度であればありえない話ではなさそうだが。。二日酔いで8,000m峰を、しかも1日で登るとか、、大した人である。

 

 その登山スタイル、ベースキャンプでのバカ騒ぎ。運に恵まれ、偉大な記録には違いないのに、この映画越しに見るニムスの登山はどこか嫌悪感を感じさせる。

 ニムスは8,000m峰14座最短登頂記録が世界で騒がれないのは「我々がネパール人だからだ」と主張している。「プロジェクト・ポッシブルはみんなの協力で達成できたのだ」「シェルパと一言で片づけるのは間違っている。彼らにも一人ひとり名前がある」とも。

 

 だがこの映画のタイトルを見れば誰もがわかる。これはニルマル・プルジャのプロジェクトなのだ。

 

 さて、この8,000m14座最短登頂という記録だが少々ニムスにも気の毒な気がしている。世界最高峰はすでに初心者でも登頂可能な、ある意味レジャーで登れる場所になってしまった。北極も、南極もお金さえ出せば手が届き、ついに宇宙でさえも金を出せば行ける時代だ。これからの冒険家はどこを冒険するのだろうか。

 どんどん先鋭化し、肉体の限界に挑んでいく登山精神は美しくもありが、やはり危険が大きい。そう考えると、ニムスのチャレンジももっと評価されてもいいのかもしれない。